気と血はペアで活動しているので、気が滞ると、血も滞ります(血瘀けつお)。
気滞の症状に、頭痛や不眠、胸の脇の脹りや固定性の刺すような痛み、部分的な冷えあるいは熱感、痩せる、顔が黒ずむ、皮膚が青紫色、皮膚が乾燥し鱗状、といった症状が加わり、舌が暗い紫色になったり、紫色の斑点(瘀斑おはん・瘀点おてん)がつくときは、血の流れを良くするものを、肝の機能を回復するものと、血を補うものを合わせて使います。
|
水分代謝の異常によって起こる症状 |
津液は、脾胃でつくられ、肺に送られたのち、全身に張りめぐらされた通り道(三焦を通って体内を流れ、腎に達します。こうした水分代謝の原動力となるのが腎気で、一連の活動を円滑に行うのは肝です。
肝鬱かんうつが続くと水分代謝が悪くなり、津液の流れが滞って、粘液性の病因物質(痰湿)に変化します。滞った気と痰湿が結びつき、のどがつまったような異物感(梅核気ばいかくき)を覚えるときは、気の流れを良くし、痰湿を除くものがいいでしょう。
|
本来とは違う機能が引き起こす症状 |
気の滞りが続いて肝の機能が異常に亢進すると、本来とは違う方向にはたらくようになります(気逆きぎゃく)。気逆には、からだの上に向かう上逆(じょうぎゃく)と、脾胃の機能を損なう横逆(おうぎゃく)があります。
上逆による頭のふらつきや頭痛、胸脇の不快感、顔面紅潮、難聴、耳鳴り、嘔吐には、半夏瀉心湯に呉茱萸湯を少量合わせたものや、四逆散と二陳湯または半夏厚朴湯の合方、柴胡疏肝散さいこそかんさんに半夏はんげと青皮せいひを加えたもので肝の機能を高め気逆を抑えます。
横逆が起こると、栄養素を肺に送る脾の機能と、不要物を大腸に送る胃の機能が乱れ、腹の脹りと痛み、ゲップ、酸っぱい液がこみあげる、むかつき、嘔吐、大小便がすっきり出ない、泥状便などの症状が現れます。
治療は、肝の機能を回復して脾胃の機能を高め、気血を補い、胃の症状が強いときは、肝と脾胃の機能を高めて横逆を抑えると効果的です。
|
|
|
精神症状と胃腸症状が同時に起こる場合 |
気血は脾胃でつくられます。腎気が衰えると、脾胃の機能も虚弱になって、必要な量の気血をつくることができなくなるため、心の活動に欠かせない血が不足し、心の機能も失調するようになります(心脾両虚)。
この状態でストレスを受け、顔面蒼白、頭のふらつき、舌の色が淡い、脈が細いといった症状に加えて、イライラ、不眠、多夢、驚きやすい、健忘、といった精神不安の症状や、食欲不振、泥状便、話すのがつらい、息ぎれ、元気がない、声が低く弱い、手足がだるいなどの症状が現れたときは、気血を中心に補うものをを使います。
|
老化によって起こる更年期障害の症状と治療 |
|
生命活動の基本物質が不足して起こる更年期障害 |
老化によって腎気が衰えると、腎そのものの陰陽(精と気)の協調が失われ、「腎陰虚」や「腎陽虚」といった病態が起こります。
たとえば腎陰虚では、頭のふらつきやのぼせ、イライラ、不眠、耳鳴り、口の乾燥、のどの痛み、ほおの紅潮、腰がだるく無力、手足の熱感、午後の発熱などが現れ、舌は紅く苔は少なく、脈が細く脈拍数は多くなります。このときは腎陰を補うものを使います。
しかし、すぐにほかの臓器を傷つけるので、多くの場合に、腎を含む複数の臓器の病変が同時に現れます。
|
水分の不足により機能が亢進して起こる更年期障害 |
肝に必要な血や津液の物質的基礎となるのは、腎陰(精と津液)です。そのため、腎陰が不足すると、肝の血や津液も不足します(肝腎陰虚かんじんいんきょ)。
月経異常、頭のふらつきや脹り、めまい、視力低下、耳鳴り、不眠、口やのどの乾燥、手足の熱感、腰やひざのだるい痛み、舌が紅く乾燥ぎみ、脈が無力で細く弦を張ったようになるといった症状には、肝と腎の陰を補い熱を除くものを使います。
|
火と水のバランスが崩れて起こる症状 |
腎陰は心の機能(心陽)が亢進しすぎないように抑える一方、心陽は腎を温め、腎陰が正常にはたらくよう助けます。心を腎は、火と水の関係のように、互いに協調し、バランスを保って活動しているのです(心腎相交)。
更年期になって腎陰が不足すると、心陽のはたらきを正常に調節することができなくなり(心腎不交しんじんふこう)、心陽が「心火」となって激しく燃えあがるため、イライラや不眠、強いどうき、手足の熱感などの症状が現れます。
この場合は、心火を除き心と腎の陰を補うを使うといいでしょう。
|
呼吸器症状を伴う更年期障害 |
腎と肺は呼吸を通じて密接な関係にあります。そのため、肝腎陰虚によって生まれた火[か] (熱)が上昇して肺を傷つけると、肺のうるおいが失われることがあります(肺腎陰虚)。
肝腎陰虚の症状に、乾いたせきや息ぎれ、口やのどの乾燥などをともなうときは、肝と腎の陰を補い肺をうるおすものがいいでしょう。
|
熱が起こり症状が激しくなる |
五臓を温め、全身の活動を円滑にする腎陽 (気)の生理機能を「相火[そうか]」といいます。相火は腎から肝に移り(「肝腎相火[かんじんそうか]」)、全身を温めて、からだに必要な物質代謝を行います。
陰虚が進んで腎陰の損傷が激しくなると、調節を失った相火が異常に亢進し、生理的な火から病理的な「邪火[じゃか]」に変化して、からだの上部に向かったり、脾胃の消化・吸収機能を妨げたり、気血や津液の流れを異常に亢進させ、乱すようになります(相火妄動[そうかもうどう])。
水分代謝が乱れ、津液を熱して目に見えないほど小さな滋養物質に変えて全身に送ること(蒸騰気化[じょうとうきか])ができなくなるため、頭痛やめまい、視力低下、耳鳴り、難聴、イライラ、怒りっぽい、手足の熱感、腰や四肢のだるい痛みなどの症状が激しくなり、舌が紅く乾燥し、脈拍数が多くなります。
肝腎陰虚から相火妄動の熱症状が起こるときは、肝と腎の血や津液を補うものを、心腎不交から相火妄動の熱症状が起こる場合は、心火を除き心と腎の陰を補うものがいいでしょう。
|
生命活動の原動力が不足して起こる更年期障害 |
反対に、全身の生命活動の原動力である腎陽(気)が不足する(腎陽虚)と、顔面蒼白、元気がない、冷え、腰や下肢がだるく無力、頻尿、排尿困難、むくみ、軟便あるいは泥状便といった症状が現れ、舌がボテッとして淡い色になり、白い苔がつくほか、脈が無力になります。
このような場合は、腎陽を補うものを、冷えや疲労などが激しいときは「右帰飲」を、むくみが強いときは「牛車腎気丸」を使います。
水分代謝がとくに悪く、強いむくみに加えて、脾の機能低下(脾腎陽虚[ひじんようきょ])によって生まれた不要な水(痰飲)が、排尿や排便の異常を引き起こす(陽虚水泛)ときは、腎陽を補って水分代謝を高め、不要な水を除くため、「真武湯」または「理陰煎」に、「五苓散」か「桂枝人参湯]」を加えて使うといいでしょう。
|
|