「化学教育ジャーナル(CEJ)」第4巻第2号(通巻7号)発行2000年12月27日/採録番号4-19/2000年12月12日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


基本操作の学習を目的とした泥水の浄化実験

小林 清昭
大阪府立泉南高等学校


1.はじめに

 高等学校の化学実験では、物質の分離をテーマにしてバーナーの取り扱い、加熱操作、ろ過操作などの基本操作を学習する簡単な実験を最初に行うことが多い。例えば、塩化ナトリウム水溶液に炭酸カルシウムを混ぜたものを用いて、各物質を分離していく実験1)がある。その他にも様々な実験が行われているが、基本操作の学習が実験の中心となり、生徒は興味を示さない場合がある。そこで、生徒がより積極的に興味を持って実験に取り組んでいく中で基本操作の学習もできる教材を考え、実践したので報告したい。

2.実験の概略

 浄水処理過程の一部をモデル化して実験を行い、泥水をどこまで浄化できるかを目標にした。浄化の程度を透明度で表し、適切な実験操作が行われたかどうかの目安とした。透明度は数値で表すことをせず、生徒には目で見て判断させた。透明度という目標を設定することで、生徒は行った実験を自己評価することができ、生徒どうしで比較しあうこともできる。そして、透明度を上げるために実験への集中力も高まり、積極的に実験に取り組むようになった。

 浄水処理の概略は、凝集と沈殿、砂ろ過、塩素による消毒の3段階である2,3,4)。さらに、高度浄水処理として生物処理、オゾン処理、活性炭処理が加わることもある2,3,4)。高校化学の学習初期に実験を行うことを念頭において、これらの浄水処理に実験を以下のように対応させた。

3.実験の方法

 実験の原理についての説明を1時限行った後、2時限をかけて実験を実施した。何を基本操作とみなすかには様々な考え方があると思われるが、この2時限の実験で試験管の直接加熱以外の主だった基本操作はほぼ学べるのではないかと考えている。また、実験では電子天秤を利用することが多いので、上皿天秤の取り扱いは基本操作に含めていない。

4.実験からの発展

 実験からの発展例として実際に行った授業を紹介したい。実験で使用した泥水を水道原水(川の水)や排水・廃液にみたて、浄水処理や排水処理の実際について実験と関連づけながら説明をした。さらに、pH、BOD、COD、溶存酸素量などの水質を調べるための項目5)について述べ、通学区域内にある川の汚染状況をそれらの項目の値で比べてみた7)。普段見慣れている川の汚染を通して、水環境について関心を持つことを期待した。

 また、実験で浄化した水を飲めるかどうかについての質問が多くの生徒から出された。実践していないが、pHや有害イオンの有無、大腸菌群数などを調べ5)、水が飲料に適しているかどうかの実験をさらに続けていくこともできるであろう。

5.おわりに

 この実験はおおむね生徒に好評である。泥水が透明な水になるということに生徒はまず驚いていた。また、活性炭を加えると水が黒くなり実験を間違えたと思う生徒が多いが、ろ過すると歓声が上がった。化学で行う最初の実験として、化学実験を楽しみにしてもらう上でもこの実験は成功しているのではないかと考えている。


参考文献

1.井口洋夫他,「高校化学IB 新訂版」,実教出版,p.15 (1998).
2.http://www.city.yao.osaka.jp/suidou/koudojyo.html(八尾市役所のホームページ−高度浄水処理水)
3.http://www.metro.tokyo.jp/INET/KYOKU/SHOUSAI/8087R103.HTM(東京都公式ホームページ−東京都・各局情報・詳細)
4.村田徳治,「正しい水の話」,はまの出版,pp.236-257 (1997).
5.環境保全対策研究会編,「水質汚濁対策の基礎知識」,産業公害防止協会 (1989).
6.盛口襄,野曽原友行,「たのしくわかる化学100時間(上)」,あゆみ出版,p.14 (1997).
7.小林清昭,深野哲也,「環境問題を教材とした理科授業」,大阪府高等学校地学教育研究会会報,27,pp.54-57 (1991).



Purification of water for teaching basic laboratory operations

Kiyoaki Kobayashi
Osaka Prefectural Sennan Senior High School
E-MAIL:ngc2237@osk.3web.ne.jp

トップへ v4n2目次へ