熱帯魚に学ぶ


熱帯魚を飼っている。数年前、インターネットで集めた同好の諸先輩の声を頼りに手探りで始めた。

熱帯魚を飼育するには、太陽や大自然の代わりに蛍光灯、ヒーター、水の濾過装置という電気の力が必要だ。限られた立方体の人工空間の中で、彼らは少しでも良い条件を求めて懸命に生きようとする。なわばり争いをしたり、稚魚を産んだり、水換え時の思わぬ事故で死んでしまったり、魚たちなりになかなか大変なドラマがあって、やがて命を全うしていく。

今でこそ飼育のコツはつかめたのだが、初期の頃は何匹もの魚たちが私の未熟な管理の中で死んでいった。
「魚をうまく飼う事は、つまりバクテリアをうまく飼うことだ」とはベテランの言葉だが、その意味を本当に理解できたのはかなり後になってからだ。フンや残りエサから発生するアンモニア(魚には猛毒)を分解してくれるバクテリアたちをいかにうまく水槽と濾過装置に取り込めるかが、つまり上手なアクアリウムなのである。

一度、ヒーターの不良で高水温になって魚たちを全滅させた事があった。
つい前日まで群れをなしていた魚たちが居なくなった水槽は実に寂しい光景だったが、流木や石など水槽の中のレイアウトや景色は全く変わらない。国破れて山河有り・・・である。

仲間はずれや相性が悪い魚は、事務所や友人、行きつけの喫茶店の水槽へ「人事異動」させると蘇ったように生き生きし始めたりする。
その他、大きい魚が入ってくると小魚の群が固まりやすくなること、群の数が多いほどエサ取り競争が激しくなることなど、日々、魚たちはいろいろな様子を見せてくれる。彼らの周囲にあるものは、つまり「エサ」「敵」「仲間」、それだけだ。

最初のうちはこうして神になったような気分で魚たちを操っていたが、水槽全体を会社組織や地球に例えてみると、人も魚も根本は全く同じであることに気がついた。

仕事の合間にボ~ッとこんな魚たちを見ていると、命、集団、仕事、個性、相性、そして人生と・・・いろんな事を考えてしまい、すぐに時間が経ってしまう。



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