本ウェブや短歌誌「心の花」、短歌誌、ブログ等に歌や書評、エッセイを発表しています。

武富純一 [Mail]

歌集『鯨の祖先』より


「まぁええか」呟くほどにまたひとつ失うものが増えてゆきたり


ゲルニカの模写を娘は持ち帰りイチゴケーキを静かに食す


祭より戻る次男はいつよりかカメも金魚も連れ帰り来ず


子の締めるペットボトルの栓きつくなり始めたり冷茶を注ぐ


ドライバーにぎり家中のネジぜんぶ締めてゆきたい雨の休日


ラーメンの鍋置く位置をためらいぬ新聞記事の少女の涙


ひそやかにレイラと名づけ年一度逢瀬をかさねる八重桜あり


下を向き咲く花なれば下手より撮れば真直ぐに我を見つめる


枝豆は大豆なんだと知った時この世のしくみが見えた気がした


本当はもっときれいに剥けるけどこの方が父らしいだろリンゴ


おまえではないかと母より電話あり銀行強盗うつむく写真


「君たち」の中に私も含まれて妻の説教まだ終わらない


「入れてんか」半歩詰めては一人増ゆ梅田地下街立ち呑み串屋


下がりたるズボンをぐいぐい整えてくれたあの日の母の力よ


道ゆずり会釈返され一日を生き抜く力得た思いせり


たそがれの電車の響きは繰り返す「なに言うてんねん、なに言うてんねん」


捕まえたと我は思っているけれど「捕まってみた」この犬の眼は


こころ病む友へ送りしファックスは「う」と「つ」の間に「ち」と「か」を入れて


これぐらい自分でさせてはくれまいかトイレの灯り勝手に点きぬ


「わかってや」の「てや」のあたりに立ちこめる決して譲らぬしょうもない意地


我が家へのいつもの角を曲がらずに消えかけている虹へ加速す


一面の水仙なれどこの花は咲き誇らない咲き乱れない


娘よ旨き肉ジャガ作れ息子よだまさるるな肉ジャガなぞに


ぐつぐつと味のしゅんでるこんにゃくを勧める女将のしゅんでる人生

「黙っとこ、もうすぐなんかアホ言うで」みたいな顔で我を見る妻


「うたう」とは自白、自供の意味なりと警察界の隠語にありぬ

黙々と憤怒の言葉を吐き連ね「保存しない」にカーソルを置く


道祖神のごとく寄り添い微笑みてパックに収まる白きエリンギ


定価なく先払いにて保証なく顔も知らない神に手を打つ


「ご飯やで」LINEの電波が駆け上がり二階の子らが駆け下りてくる




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