11億の人口と日本の28倍もの国土を持つ広大な国、中国。その中で、黄海を隔てて日本と向き合う身近な都市が、上海だ。そして上海から300kmばかり内陸に入った南京には、中国の大口径望遠鏡が集まる紫金山天文台---紫金山彗星で一躍有名になった---がある。
その紫金山天文台と、上海にあるプラネタリウムを昨年秋、訪ねてみたので、ここに紹介しよう。
1991年10月初めから一か月間、中国にある上海の大学で、短期留学生として過ごす機会がありました。上海市は、最近の調査では13000万人が住むという、中国第一の、いや世界最大の都会です。
「中国の経済は上海でもつ」といわれるほど上海は中国の経済活動の中心地です。秋空に梧桐樹（ウートンシュー、すずかけ）の葉が色づいてゆく季節、目抜き通りである南京路には、買い物の人があふれています。
上海唯一の天象館（プラネタリウム）は、延安西路が華山路と交差する静安公園の隣、上海市少年宮（℡ 258-1850）の中にあります。少年宮というのは、中国の青少年が課外授業を行う施設で、上海市では、各区ごとに少年宮があり、正式には中国福利会少年宮と呼び、市の直轄になっています。
今世紀前半、中国が租界地であった頃、香港のカドゥーリー家（嘉道理家、The Kadoorie Family）が所有していた邸宅で、1961年、庭の西南の隅にプラネタリウムが建てられました、1964年に、カール・ツァイスのプロジェクターに変更されて、現在に至っています。
投影は毎日午後2時半から１～２回あり、1回の投影時間は20分くらい、収容人員は120人ほどの小さなものです。入場料は無料、私が訪れたときは、肖天生（Xiao Tiansheng）さんが解説を行っていました。説明は録音を使っていましたが、子供たちはずっとおしゃべりを続けていて、日本の子供に較べて活発な（言い換えれば、行儀が悪い）感じでした。
上海を訪れる機会がありましたら、ぜひこのプラネタリウムを見ることをお勧めします。少年宮の入り口の守衛さんに「天象館に行く」と言えば通してくれます。上海には市内の徐家匯（南西部）と郊外の余山（松江県）に上海天文台があるのですが、行く機会がありませんでした。
中国にはプラネタリウムはきわめて少なく、一般の大学生に尋ねても、天象館という言葉を知らないか、天象館と天文台の区別がつかないようです。
一か月の滞在中に、南京に２泊３日のグループ旅行をしました。南京は上海から西へ300km、長江（揚子江）のそばにあり、江蘇省の省都です。昔から歴代の王朝が都としていたところで、広い街路には雪松（ヒマラヤ杉）と梧桐樹が残る美しい町です。
観光名所として、火車站（駅）前の玄武湖講演、中華門、郊外の紫金山のふもとの明孝陵、中山陵などがあります。そしてわれわれ天文ファンにとっては紫金山天文台があるわけです。
紫金山天文台は、もちろん観光名所ではないので、個人的に訪れるしかありません。ところが、中国を外国人がグループ旅行をする場合に、個人行動をとることはほとんど不可能です。私の場合には、３日目の朝、風邪気味になり、ホテルで少し休んでいると気分もよくなってきたので、ホテルのフロントにある電話帳で紫金山天文台弁公室（事務所）の電話番号（℡ 30-3921）を調べてから、フロントの人に電話してもらいました。
「日本の天文雑誌に、記事を書きたいので」と伝えてもらうと、すぐ許可がおりました。フロントの人に「天文台に電話して、訪問の許可をとってある」旨の簡単な中国語の手紙を書いてもらいました。
早速、ホテルの前で出租汽車（タクシー）を200元（5000円）でチャーターし、紫金山天文台へ向かいました。片道12kmの道のりですが、途中南京の城壁のそばを通ったり、紫金山のふもとに続く竹林を眺めたりして見飽きることはありません。
天文台の門で、朱愛中（Zhu Aizhong）さんが待っていてくれました。山頂に来て分かったのですが、紫金山には三つの峰があり、一番高いところには軍事施設らしきものがあり、天文台は二番目の峰にあります。
右手の階段を上がると、口径60cm反射望遠鏡のドームがある古式豊かな建物（1934年建設）があっり、その裏に明代の天体観測機が置かれています。天球儀、地平経緯儀、渾儀、簡儀、圭儀などです。中国語と英語の説明文を読むと、ほとんどの機器が義和団事件のとき（1990年）にドイツやフランスに持ち去られ、数年後に変換されたそうです。日本はこの持ち去り事件に関与していなかったようで、日中戦争の南京大虐殺（1937年）を聞いていた私はホッとしました。
同じ高さのところに子午儀があり、さらにあがっていくと、人工衛星観測用のシュミット望遠鏡（43/60cm）があります。ここの屋上が展望台になっており、360度の眺望が楽しめます。眼下には玄武湖と南京の市街地が見え、遠くに長江が横たわっています。山側には紫金山の最高峰（442m）の軍事施設らしきものが見え、手前には先ほどの60cmや、40cmん０ドームが見えます。
この天文台は中国科学院に属していて、現在439人の科学者が働いています。台長は、1982年より張和ネ其（Zhang Heqi）さんです。南京は緯度でいうと、鹿児島のあたりになります。観測に適しているのは秋と冬で、春と夏はダメだといっていました。南京の市街地の光害がどの程度あるか分かりませんが、市内から車で20分くらいのところに、このような自然と天文観測施設があるのはうらやましい限りでした。
上海は中国経済の中心地ということもあって、日本人も1000人（うち300人は学生）くらい住んでいると聞きました。南京以外にも、「天上には天堂（パラダイス）、地上には杭蘇あり」と言われた蘇州、杭州といった観光地をひかえていて、これからも訪れる日本人は多いと思われます。上海のプラネタリウムと、南京の紫金山天文台は訪れてみる価値があります。
このあと1998年にカトリックの方々とツアーに来たときに、上海西郊外の余山（She2-shan1）にあるカトリック教堂「中山聖母主保堂」（The Mid-Level Church of Our Lady）の隣りにある余山天文台を見る機会もありました。大連市のプラネタリウムについては、ここに書いてあります。参照；大理石大厦（今の上海市少年宮
自然と共にトップページへ戻る
In 1992, I contributed this article about my visits to the Planetarium at the Young Pioneers' Palace (formerly the Kadoorie family's "Marble Palace") in Shanghai and the Zijinshan Astronimical Observatory in Nanjing, both in October, 1991
Return to the With the Nature Home Page