孀婦岩


朝焼けの中そびえたつこの岩を見つけた時の印象としては「ついにボスキャラ登場!」といったところだろうか?四方はひたすら大海原が続く、全くの孤高の岩がこの孀婦(そうふ)岩だ。

周りは1000m級の海底で、ここからなぜいきなりこんなものがずどーんとおっ立っているのだろうか?と不思議な気分にさせられる所である。八丈島からは毎年数航海、孀婦岩ツアーが企画されているとのことだが、ダイビング専用のクルーザーなどあるわけもなく当然漁船チャーターとなる。

しかも海況の安定する夏季限定のプレミアム付きというわけで、ここに来るには快適なリゾート生活や妻子・恋人をかなぐり捨ててでも!という相当のダイビングフリーク(あるいは気違い釣り師)を数人そろえ、しかも数日に及ぶ漁船生活に耐えられるだけの体力と精神力と胃袋を備えていなければならない。それでも以前からここには多くのダイバーが訪れていて、故・高野五郎氏や吉野裕輔氏の写真集にも孀婦岩は掲載されている。

水中の地形もほとんどが急激なドロップオフで、足元には蒼い闇があるのみ。水底が見えるのは岩の西側だけであった。ここを回り込むように船を岩に寄せ、一気にエントリーすると目の前に小さなアーチがある。ここをくぐりそっと向こう側をのぞくとイソンボとカンパチが群れていた。

他にも水面にはハンマーヘッドはいるは50m位の水底にはメジロザメらしきサメはうようよしてるはで、我々は「おぉー!」と唸るばかり。ただ、この辺にはカツオ漁船が多いためかヒトの姿を知っているようで、我々の姿を見つけると彼らはすぐに紺碧の彼方へ去ってしまった。それでもクロカッポレやカマスの群れは見慣れぬ我々を歓迎してくれ、珍しいキビレマツカサも群れていた。

なにしろここではこの岩を回る以外にはコースの取りようがないので、写真を取りながらでも1ダイブで岩を1周近くしてしまう。一生に一度これるかどうかのこの海に我々は3ダイブして強烈な印象を胸に刻み込み、とれたてのカツオを胃袋に詰め込んで孀婦岩を後にした。去っていく我々を孀婦岩はいつまでも見つめていた(ような気がした)。