- 授業科目
- 1997年度3年次の化学Ⅱ(2単位)
- 1講座(男子18名、女子16名)
- 陽イオンの系統分析に関連して11時限
- 水溶液中のイオンの反応についての実験・・・6時限
- 炎色反応の実験 ・・・1時限
- 系統分析についての説明 ・・・1時限
- 系統分析の練習 ・・・3時限
- 放課後に分析の自由練習 ・・・1回
- 期末考査は金属イオンを分析させる実技試験を行った。
- 授業内容(実験は2人1組で行った)
- 金属イオンと各試薬とを反応させ、沈殿の有無・色・状態、溶液の色などを実際に自分の目で確認する。また、試薬や試験管の取り扱い、洗浄の仕方などについて練習を行った。・・・6時限
- 用いた金属イオンは Ca2+, Ba2+, Ag+, Cu2+, Zn2+, Al3+, Pb2+, Fe2+, Fe3+
- 用いた試薬は 塩酸、水酸化ナトリウム、アンモニア水、硫化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、チオシアン化カリウム、クロム酸カリウム
- 白金線を用いて炎色反応の実験を行い、元素と炎色反応の色との関係を実際に自分の目で確認する。また、卵の殻やミネラルウォーターを例にして含まれる元素の分析を行った。・・・1時限
- 用いた元素は Li, Na, K, Ca, Sr, Ba, Cu
- 金属イオンの系統分析についての説明・・・1時限
- 水溶液中に含まれる金属イオンを実際に分析してみる。・・・3時限
- 水溶液中に含まれる2種の未知イオンについて2時限、3種の未知イオンについて1時限
- 未知イオンは10種 Ag+, Pb2+, Cu2+, Al3+, Fe3+, Zn2+, Ca2+, Ba2+, Na+, K+
- 自由練習を期末考査の3日前の放課後に行った。・・・1回
- 期末考査は実技試験を行った。
- 一斉に実験を行い、巡回しながら実験操作について採点をする。実験終了後、推定したイオンを記入した解答用紙を提出する。
- 時間は1時限(50分)。制限時間を超えても後片づけはきちんと行う。
- 一人ずつ異なる試料を分析する。
- 分析試料(未知イオン3種)は含まれるイオンの組み合わせがすべて異なる。
- どの試料を分析するかは試験直前にくじで決める。
- 試験場(実験室)へ教科書やプリント・ノートを持ち込むことは認める。
- 私語は禁止。ひとりごとも禁止。
- 試薬は6~8人で1つずつ。(協調性をみるため)
- バーナー、白金線は2人で1つ。
- 試験管は1人に4本。ろうとは1つ。
- 評価点
- 未知イオン3種のうちの正答数
- 実験操作
- 器具の洗浄の仕方
- 試薬の扱い方
- ろ紙の使い方
- ろ過の仕方
- バーナーの扱いなど、安全面への配慮
- 器具の破損の有無
- 落ち着いた実験態度
- 協調性のある実験態度
- 後片づけ
- その他の実験中にふさわしくない態度
- 試料作成の際に配慮した点(生徒には知らせなかった)
- Al3+ と Fe3+ は組み合わせない。
Al3+ の確認が難しくなるため。
- Ca2+ と Ba2+ は組み合わせない。
Ca2+ の確認が難しくなるため。
- Cu2+ と Fe3+ は組み合わせない。
試料溶液の色で3つのイオン中2つのイオンがすぐわかってしまうため。
- Ag+ と Pb2+ は組み合わせない。
系統分析の最初の方で2つのイオンがわかってしまうため。
- Al3+ と Fe3+ は組み合わせない。
- 実際に生徒が分析した試料と解答の正誤
試験管の破損などで試料を失った場合は、別の試料で最初から分析をやり直す。
- 全体の正答率
イオンの正答数 人数 3 6 名 2 16 名 1 11 名 0 1 名 平均正答数・・・1.8 個
- イオン別の正答率
イオン 正答率 Ag+ 9/10 90 % Pb2+ 8/10 80 % Cu2+ 10/10 100 % Al3+ 4/11 36 % Fe3+ 5/10 50 % Zn2+ 6/10 60 % Ca2+ 6/12 50 % Ba2+ 6/11 55 % Na+ 5/9 56 % K+ 2/9 22 % - イオンの組み合わせ別の正答率
共存したイオン 計 Ag+ Pb2+ Cu2+ Al3+ Fe3+ Zn2+ Ca2+ Ba2+ Na+ K+ 正答の割合 Ag+ - * 1/2 4/4 3/3 2/2 2/3 2/2 2/2 2/2 18/20 Pb2+ * - 1/2 2/3 2/3 1/1 3/3 3/4 2/2 2/2 16/20 Cu2+ 2/2 2/2 - 3/3 * 3/3 2/2 4/4 3/3 1/1 20/20 Al3+ 0/4 1/3 1/3 - * 0/0 3/4 1/3 1/2 1/3 8/22 Fe3+ 1/3 1/3 * * - 3/4 2/4 1/2 1/1 1/3 10/20 Zn2+ 1/2 0/1 2/3 0/0 2/4 - 2/2 2/3 1/1 2/4 12/20 Ca2+ 1/3 0/3 1/2 3/4 1/4 2/2 - * 2/4 2/2 12/24 Ba2+ 2/2 1/4 2/4 3/3 1/2 0/3 * - 2/3 1/1 12/22 Na+ 1/2 0/2 2/3 1/2 1/1 0/1 3/4 2/3 - 0/0 10/18 K+ 1/2 0/2 1/1 0/3 1/3 1/4 0/2 0/1 0/0 - 4/18 計 9/20 5/20 11/20 16/22 11/20 12/20 17/24 15/22 14/18 12/18 122/204 - 正答率についての考察
- K+ の正答率が低い。
沈殿反応のような特有の反応がなく、しかも炎色反応がわかりにくいためであろう。
- Al3+ の正答率が低い。
Al3+ の確認は水酸化物の沈殿で行った。水酸化物の沈殿の色(白)やもやっとした特徴的な沈殿の状態、沈殿が塩基で溶解する点で判断するが、有色の沈殿生成のような高校生レベルでの特有の反応に乏しく、Al3+ の存在がわかりにくかったのであろう。
- Cu2+ の正答率が100 %。
試料溶液の色でわかったのであろう。しかし、Fe3+ の正答率がよくないのはなぜか? 実験で Cu2+ を扱う機会が多く、青色もきれいなため、Cu2+ の色が印象に残っていたのだろうか?
- Ag+ と Pb2+ の正答率が高い。
系統分析の最初の段階で沈殿反応が起こるので、操作ミスや完全に分離できなかったイオンなどの影響が少なかったのであろう。
- Ag+ や Pb2+ が共存すると他のイオンの正答率が低くなる。
系統分析の最初に加える HCl で Ag+ や Pb2+ が十分沈殿せず、ろ液に混じり、後の試薬で沈殿を生じたため誤った分析結果になったのであろう。特に、HCl の次に加える硫化アンモニウムで硫化物の沈殿を生じ、Cu2+ が存在すると考えたものが多いようである。
- Ag+ または Pb2+ を含む試料溶液21種中、Cu2+ が共存していたものは4種のみだった。しかし、これらの試料(21種)を分析したもので Cu2+ を解答に含めていたものが9人おり、実際に含まれていた数の倍以上にのぼる。このうち5人は Cu2+ が存在しないのに Cu2+ の解答をしていた。Cu2+ の存在は試料溶液の色で判断できるにもかかわらず、多くの誤答があった。
- Cu2+ と同様に試料溶液の色で存在が確認できる Fe3+ の場合、Ag+ または Pb2+ を含む試料溶液21種中、Fe3+ が共存していたものは6種。これらの試料(21種)を分析したもので Fe3+ を解答に含めていたものは5人のみであり、実際に含まれていた数よりも少なかった。
- 1つのイオンのみ誤答した場合(16名)から「あるイオンを誤答するときには、どのイオンと間違えやすいか?」という点も調べてみたが、データの数が少なくてよくわからなかった。
- Al3+ を Zn2+・・1名、Na+・・1名、K+・・1名
- Fe3+ を Al3+・・1名
- Zn2+ を Fe3+・・1名、Na+・・1名
- Ca2+ を K+・・2名
- Ba2+ を Fe3+・・1名、Ca2+・・2名
- Na+ を Ba2+・・1名
- K+ を Cu2+・・1名、Fe3+・・1名、Na+・・2名
- Na+ に間違えた場合がやや多かった(4/16)が、白金線の洗浄不足が関わっているのかもしれない(水道水の影響?)。
- K+ に間違えた場合がやや多かった(3/16)が、うまくイオンを分析できず消去法で答を出したのかもしれない。
- Ca2+ を K+ に、Ba2+ を Ca2+ に、K+ を Na+ に間違えた(各2/16)のは、イオンの反応が比較的似ているためかもしれない。
- K+ の正答率が低い。
- 実技試験を実施することもあり、授業は積極的にまた楽しんで受けてくれていた。ただ、実技試験でどの試料がくじで当たるかにより、やや当たりはずれがある。また、定期考査のため実験の失敗が成績にかなり大きく影響する。生徒の感想は「難しい」だった。これらのことから、実技試験の方法、筆記試験をなくして実技試験のみで定期考査を行うことについての是非も考える必要がある。定期考査とは別に授業中に試験を行うことについても考えたが、試験への取り組みに対して真剣味に欠けるおそれがあり行わなかった。
- 「系統分析の各段階で完全にイオンを分離しなければならない」ということをもう少し強調するべきだった。また、完全にイオンが分離できたかどうかを確認する方法についての説明が不十分だった。
- 試薬作りを実習教員の方にお願いしたが、試薬の種類や量が多いため負担が大きくなってしまった。
- 実験回数が多いので、多量に出る廃液の処理をどうするか考える必要がある。本校では例年業者に依頼している。
- 阿藤 質,"基礎課程 化学実験法",培風館(1966).
- 盛口 襄,高田博志,"いきいき化学アイデア実験",新生出版(1990).
- 三井澄雄,伊藤 博,"高校化学の授業100時間 上",あずみの書房(1988).
- G.シャルロー,"定性分析化学Ⅰ 改訂版",共立出版(1980).