モ ー ツ ァ ル ト ピアノ協奏曲

第13番 ハ長調 K.415 & 第9番 変ホ短調 K.271「ジュノム」





モーツアルト:ピアノ協奏曲
第13番
第9番
ハ長調
変ホ短調
K.415
K.271「ジュノム」
田 中  一 美(ピアノ)
ソリスティ・ディ・プラガ室内管弦楽団
指揮:ポリス・モノソン

   1995年8月録音



ピアノ協奏曲 第13番 ハ長調 K.415

@第1楽章:アレグロ 10:53
A第2楽章:アンダンテ 7:45
B第3楽章:アレグロ(ロンド) 8:54


ピアノ協奏曲 第9番 変ホ長調 K.271

C第1楽章:アレグロ 10:47
D第2楽章:アンダンティーノ 10:50
E第3楽章:プレスト(ロンド) 10:31

Total Time 59:40



ソリスティ・ディ・プラガ

 指揮者であり、ヴァイオリニストであるボリス・モノソンはロシアのキエフに生まれ、モスクワ音楽院でヤンケレヴイッチ教授に師事。ベルリンのカラヤンコンクールで第1位。その後、プラハシンフォニーオーケストラのコンサートマスターに招かれ、国際的な演奏活動を開始する。1990年に当チェンバー・オーケストラを設立し、毎年120回の演奏会を行っている。特に美しい音色と自然な音楽表現には定評がある。『演奏技術と音楽性の両バランスがとれたオーケストラである。』と評したヴァイオリニストの巨匠ヨセフ・スークがパトロンとしてバックアップしている。レパートリーは、バロックから現代まで幅広く、なかでもモーツァルトのCDは好評を得ている。


田 中  一 美

 3歳よりピアノをはじめ、5歳より片岡みどり氏に、10歳より故井口愛子氏に師事。第21回全日本学生音楽コンクール小学枚の部西日本第3位入賞。第24回全日本音楽コンクール中学校の部西日本第3位入賞。高校を卒業と同時に渡独し、西ドイツベルリン国立音楽大学音卒業。故ゲルハルト・プッヒェルト、ヘルムート・ロロフ氏に師事。ロスアンゼルス日系交響楽団主催第4回国際コンクールピアノ部門1位なしの第2位入賞。リサイタルをはじめ、大阪、京都、名古屋など数多くのオーケストラと再々共演。さらに最近では演奏活動の場をアメリカ、ヨーロッパなど国際的に広げ好評を博している。
 1991年には、居住地愛知県稲沢市に音楽専用ホール[カンマーザール〕を設立し、クラシック音楽をより身近にという独自のプロデュースを展開して広く一般の人々に新しい音空間を提案し、音楽の普及と向上にも積極的に取り組んでいる。



楽曲について


ピアノ協奏曲第13番 ハ長調 K.415

 この曲は、へ長調K.413、イ長調K.414と共に、1782年の後半から翌年にかけて作曲されたピアノ協奏曲シリーズに位置し、いづれもモーツァルトのウィーン時代の作品である。この3曲の中では、イ短調が最初に書かれ、その後ヘ長調、ハ長調という順序で作られ、当時の管弦楽編成としては規模も大きく、曲想も雄大な独創性を秘めている。

第1楽章 アレグロ ハ短調 4分の4拍子
 冒頭のリトルネロはオーケストラ的であり、ピアノが独自の音楽で登場する。つまり、ピアノと管弦楽とが互いに領分を限っての役割を果たす古典協奏曲のスタイルを形成している。

第2楽章 アンダンテ ヘ長調 4分の3拍子
 のびやかな主題がヴァイオリンに現われ、その後ピアノ独奏となる。各部分には根本的な斬新味はないが、終始甘美な表情が漂っている。

第3楽章 アレグロ ハ長調 8分の6拍子
 A-B-A-C-A-B-A の典型的なロンド形式で構成されている。中でもBの部分が曲の流れに意表をつき、変化に富んだきわめて魅力のある終楽章として全体の均衡を保っている。

 ウイーン時代のモーツァルトが語っているピアノ協奏曲の音楽観は、『…やさし過ぎず、難し過ぎず、その中間の程よいところに重点を置くこと。耳には輝かしく、快く自然であること。また、専門家にも普通の聴衆にも退屈しないようにすること…』〜といっているとおりとても親しみやすい曲である。ウイーンに来て3年目には、当然彼のピアノ協奏曲は人気を博し、音楽会は常に好評でモーツァルトの狙いどおりとなった。



ピアノ協奏曲第9番 変ホ短調 K.271「ジュノム」

 このピアノ協奏曲第9番は、モーツァルトのザルツブルク時代のピアノ協奏曲の中でも特に傑出した作品である。「ジュノム」の標題でも知られているとおり、フランスの女流ピアニスト、ジュノム嬢がザルツブルクを訪れた際、彼女のために書かれた作品といわれている。作曲されたのは、1777年1月、モーツァルトが21歳の時である。

第1楽章 アレグロ 変ホ長調 4分の4拍子
 冒頭の2小節目からすぐに独奏がはじまるという大胆な手法。またカデンツァの後も独奏者が最終小節にいたるまで演奏し続けるというこれまでにない構成となっている。

第2楽章 アンダンティーノ ハ短調 4分の3拍子
 モーツァルトがピアノ協奏曲のために書いた始めての短調の楽章である。弦楽器群が弱音器をつけ奏でるこのアンダンティーノの旋律は限りなく美しい。

第3楽章 ロンドプレスト 変ホ長調 2分の2拍子
 ロンドであるが、その中間部に奏でられる独奏ピアノのメヌエットはとてもユニークな楽想となっている。

 モーツァルトは多分ピアノの名手ジュノム嬢の出現に強く刺激され積極的にこの作曲に取り組んだのであろう。その結果、あらゆる点において、これまでの曲より進歩しており、全曲にわたりピアニスティックな楽想が多く用いられた。独奏楽器とオーケストラ、そしてピアノとの斬新な対話は、彼のオペラの劇的な表現方法さえも感じられる。ジュノム嬢の影響でその年にモーツァルトがパリに向けて旅立った心境がこの作品に反映され、洗練された趣味と、若日の感傷的な叙情とに満ち溢れた傑作となった。



【モーツァルトに想う】

 モーツァルトの曲は、一般的に明快でシンプルという言葉でよく表現される。でも、その言葉どおり感じてはいけない。常に彼の音楽は愛にあふれ、清純無垢でありながら驚くほどの大胆さやユーモアを持っている。つまり、演奏する者がいかに一見シンプルに見える音符の裏側や奥深くを読み取れるかによってモーツァルトの音楽の生命がよみがえるのではないかと思う。流麗さや軽快さ、うたうこと、間、音色など…何もかもが自然に生き生きと自由に聞こえてほしい。最近になって、幼い頃に学んだモーツァルトとは違った感じに見えてきて、一枚目のCD録音にはモーツァルトを選んだ。
 今回、リスト協会スイス・日本の会長で、ピアニストのリヒャルト・フランク氏が、指揮者のボリス・モノソン氏率いるチェコを代表する室内管弦楽団のソリステイ・ディ・プラガとの出会いを与えてくださり、その夢が実現した。音楽を通じての、多くの出合いに心より感謝します。
田 中  一 美