郷に入れば…


どの釣場にも“常連“と称される人々がいる。ひとつの波止へ通い詰め、一匹の魚をものにするために「あーでもないこーでもない」を繰り返し、その釣場のタックル、潮、釣り方等を極めたオーソリティたちである。

時にその人たちの釣りスタイルは、なんでこんなことを?、と思わされることがある。例えば武庫川一文字での短竿を使ったハネのズボ釣り。もちろん長い竿でもいけるのだが、これは一文字の内側が足元から断崖絶壁だからこそできる釣り方だ。彼らはタナを変えた幾本もの短竿を扇状に出してアタリを待つ。

逆に、沖あいまで底が浅く段々になっている和田防などでは、鮎竿を改良したとても長い竿でチヌを狙う常連たちが、私たちの眼前に巨チヌを見せてくれる。

須磨海釣り公園でのハネ釣りも独特だ。1mもあろうかという長い棒ウキを100mほど潮に流していく。あるポイントでは、片側のポイントが竿出し禁止となっているため、潮の向きによっては、流れ去るウキを後ろ向きに見つめることとなる。

常連さんたちは“バック”と称しているが、ズラリと並んで揃って後を振り向いているその異様な姿を初めて見た時は、一体何をしているのかと思った。これも東西に流れる速い潮と垂直に交差した釣場という構造から進化した釣法の典型だろう。

いずれも、釣場の構造がまず先にあり、その構造に合わせて独自にタックルが進化したというわけだ。「郷に入れば郷に従え」という言葉は、釣りにもピタリと当てはまる。どんなに違和感があっても、そうした釣り方に至った理由と歴史と合理性が頑として存在するのだ。

だから、いくらホームグラウンドで鍛えた自信あるタックルでも、場所によってはまるで役に立たないこともある。もちろんそのまま通用することもあるだろうが、慣れない釣場では、まずは素直に常連に従う方が、自分の釣りの世界がより広がるというものだ。

ひとつの一文字を極めたいと思ったら、ヘタに釣りマスコミなどに頼らず、こうした常連さんたちに素直に学んだ方がよほどうまくなるのではと思う。



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