データで攻略、神戸・垂水一文字、激流のグレ釣り(武富純一)



兵庫県神戸市垂水、垂水漁港のすぐ沖合にある通称「垂水沖一文字」は、すぐ西に明石海峡をひかえ、その速い潮流の影響を大きく受けているため、潮通しが非常に良い釣場だ。

この一文字の一角では、ある特定された潮の干満と朝まずめが合致すると見事な激流と潮ヨレが出現し、まるで離島の奔流釣りさながらのスリリングなグレ釣りを楽しむことができる。サイズは30cmまでが多いが、時にそれをオーバーする嬉しい良型がシャープな引きで竿をギンギンに曲げてくれることもある。

私は過去の釣行記録をパソコンでデータベース化している。以下の釣法は、垂水一文字内向きでのグレ釣りに関する記録を分析しながら、解ったデータを法則としてまとめていく中で会得した釣りだ。試行錯誤の連続で、自信を持って語れるまでいささかの年月を要し、その間、渡船店、餌屋さんにかなりの授業料を払ったが、今思えばそのプロセスも楽しいものだった。

釣れる日をパソコンで予測

この釣りの一番重要なポイントは、激流と潮ヨレが発生する日を予測して釣行することだ。潮ヨレができない潮の日は、このポイントでいくら粘ってもグレは釣れない。そのためにはまず「潮の干満時刻と干満の潮位差を知ること」だ。
 潮ヨレができ、そしてグレが釣れる具体的な条件、それは「10月から年末までの期間で午前2~3時前後に干潮を迎え、次の満潮との潮位差が100cm前後の日」に一番船で釣行することだ。この条件の日なら大潮でも小潮でも別にかまわない。

こう聞くと「そんな難しい潮の状態がどうやって予測できるのか?」と多くの方は思われるだろう。答えは簡単、潮汐グラフのソフトをパソコンで起動させるのだ。
ソフトの入手方法はインターネットで「潮汐予測ソフト」で検索すると「Tide for Win」という無料ソフトが出てくるからこれをダウンロードするのである。全国各地の釣場の潮の干満時刻と潮位がグラフ表示される非常に便利なソフトで、インターネットの黎明期、パソコン通信の時代から受け継がれてきた人気ソフトだ。
これで先の条件に合う日を探って釣行することができれば、かなりの高確率であなたはグレをゲットすることができるだろう。


■「Tide for Win」で見た理想の潮ヨレ発生の日のグラフ。この日は午前7時から11時くらいまで激流が続く。


ただの海面が一変

激流と潮ヨレが出現するポイントは一文字の内向きの旧灯台跡付近だ。普段は何の変哲もないただの海面なのだが、先の条件が揃った時、そこは潮が走り、渦や潮ヨレで大にぎわいの奔流水域に豹変する。

ここの潮はとても複雑。大ざっぱにいえば向かって右から左へ流れるのだが、川のようにゴウゴウと流れ込んでいるところもあれば、左右から潮が押し合いへし合いしながら潮ヨレとなってゆっくり左へ動いているところもある。また、離島の磯でよく見られ、カガミと呼ばれる湧き水のようなモッコリ水面も現れる。その様子はまるで沸騰したナベの湯を見ているようにダイナミックだ。

さて、先の条件だと、午前7時前後から海面がなんとなく騒がしくなり始め、やがて激流と潮ヨレが出現し、そしてグレの時合い到来で左右あちこちで竿が大きく曲がり始める。潮ヨレができ始めるとそこへグレたちが遊びに来て、群れをなして乱舞し始めるという感じである。
そして、午前11時前後になると潮はゆるみ、正午頃には元の平和な海面に戻る。もちろん、天候や気圧など潮汐以外の要素もあるため、多少の時間的ズレはあるが、つまり、この潮ヨレ発生と朝まづめが重なる時がゴールデンタイムなのである。

■激流グレのポイント、一文字内向き旧灯台跡付近。普段はなんでもない海面(左)なのだが、潮ヨレが発生するとグレの一級ポイントに変わる。


1号のウキにオモリ0.5号?!

タックルは1号5・3mの磯竿に中型スピニングリール、道糸は2号でハリスは1.2号を1ヒロとる。ウキは1号負荷の円すいウキで、オモリは0.5号。そしてハリスの中間にガン玉Bをつける。タナは3ヒロ基本の遊動式だが、後半、グレが浮いてくると2ヒロでも釣れる。

ハリは食い込ませ重視でグレの4号を使う。おすすめのウキは釣研の「本流チヌ」だ。どっしりした感じのフォルムはゴチャゴチャな潮の中で安定し、重みがあって投げやすく、遠投しても視認性が非常に良い。

ガン玉無しの完全フカセ仕掛が幅をきかせる昨今、慣れないグレ師が見たらウキ浮力1号、オモリ0.5号のアンバランスな仕掛けにズッコケそうになるかもしれない。ところがドッコイ、現場を見ればこの仕掛に納得するはずだ。

激流が発生し潮ヨレが盛期となると、まるで湧き水のようなモッコリ水面が現れる。そのすぐ側にウキがあると、引き込み潮にウキと仕掛けが強い力で引っ張られる。場合によってはこのポコポコウキでさえ、スイスイと簡単に潮に引かれて姿が見えなくなるのである。ここの激流を制するには、これくらいの強い浮力がないとダメなのだ。

慣れないうちは、これをアタリと勘違いしてしまい、何度も素バリを引くこととなる。ウキが沈み、それが潮に引かれただけなのかグレのアタリなのかよく解らない時は、竿をそっとあげ穂先で反応を見てみることだ。穂先が軽く曲がり、グンと重みが乗ったらそれはグレ。逆に、穂先が曲がらず手元に重みを感じられなければ、それは引き込み潮のイタズラだ。
慣れてくればアタリによるウキの沈みか否かが解るようになる。生物が物理的に引っ張るウキの動きと単に水流に引かれただけの動きの違いが解れば、更なる釣果アップは間違いないだろう。

エサはイシゴカイ

投点は竿2~3本ほど沖合だ。当然ながらウキの動きがとても複雑になるため、絶えず仕掛けのコントロールが必要だ。釣人が多いときはオマツリもごく当たり前に起きてしまうので、同じ場所で遊ぶ釣人同士、気持ちよいマナーで楽しみたいものだ。

エサは、私はイシゴカイを好んで使う。シーズン初期にパン粉のカゴ釣りで数を釣る常連さんもいるし、オキアミを使う人もいるが、ここのグレはイシゴカイに分があると私は思っている。マキエはいくら撒いても水洗便所のようにサッと流れ去ってしまうようで、私は持参したことがない。

この釣りが楽しめる盛期は、毎年10月から年内いっぱいまでだ。私の手帳には「激流発生日」に二重丸が入っている。毎年、秋の季節はこの丸印と仕事のオフが重なる日が私の至福の釣行日となるわけだ。

パソコン活用で釣りなんて…と思う方もおられるかもしれないが、朝まずめに潮ヨレが予測通りにピタリと発生し、思ったイメージの通りにグレを数釣り上げていく楽しさは格別なものだ。私にとってパソコンは竿やリール、ウキなどと同じく、釣りの楽しみを広げてくれる大事な釣り道具のひとつでもあるのだ。



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