生きエビぱらぱら強引堪能
エビ撒き釣りのすすめ


ハローフィッシング
2004/1/22、2/5号掲載


エビ撒き釣りとは、その名の通り生きたエビを撒いて魚を釣るわけだが、私が通う大阪湾の南部、泉州エリアではもっぱらハネ釣りの事を指す。ハネとは、関東ではフッコと呼ばれているスズキの幼魚のことで、40cm前後のサイズの総称だ。

エビ撒きのハネ釣りを楽しんでもうずいぶんになるが、釣り方、アタリ、引き味、サイズ、どれをとってもとても楽しい釣りだ。街のすぐ近くの海で、手軽に大物の引きが味わえるのが魅力だし、時に70cmオーバーのスズキクラスが竿を大きく曲げてくれることもある。

エサのエビはシラサエビと呼ばれ、こちらでは釣り場近くのエサ店ならどこでも売られている。体長3~5cmの淡水エビで、元々は琵琶湖産だが、最近では韓国や中国からも空輸されている。

基本タックル

私がよく行く場所は、岸和田の一文字や泉大津近辺の地続きの波止などだ。まずは基本的なタックルを紹介しよう。
竿は、磯竿の1号~1・5号で5~5・3m。リールは中型スピニングリールで道糸は2・5号前後がよいだろう。ウキは20cm前後の棒ウキ。負荷は1号前後が使いやすい。

ハリスは1・5号を80cmほどとる。ハリスの長さが意外に短いのが特徴だ。別にもっと長くても釣れるのだろうが、これくらいの長さの方がしっかりとシカケが落ちて複雑な潮流のときでもうまく安定してくれるような気がしている。

ハリスはチモトから20cmのところにガン玉のBを付けるのが基本。潮が速い時はガン玉を下げ、逆に流れがない時は上に付けて調整する。

ハリはチヌバリの3号前後なら別にこだわらない。ハネの口はバカでかい。スズキクラスになると子供のゲンコツならすっぽり入るだろう。そんな口にハリを掛けるのだから、ハリは多少大きくても問題はないはずだ。

しかし、大切なのはサシエであるシラサエビとのバランスだ。
ハネは生きたエビが水中でピチピチ動くのが絶妙の誘いとなる。あまり大きなハリだとシラサエビの頭部が重たくなってしまって泳ぎが不自然になる、逆にあまり小さいとハネの口に掛かりにくいだろうということで、落ち着いたサイズがチヌバリ3号前後となったのだ。

つまり、ハネの口のサイズを考えてではなく、付けるサシエの性格によってハリのサイズが決まったと考えた方がわかりやすい。
今ではシラサをなるべく弱らせないために配慮された細軸の「生きエビ専用」というハリも出ている。これだと8号前後が使いやすい。

ウキは20cm前後で負荷一号の棒ウキが使いやすい。他に0・5号負荷や電気ウキもそろえておくといろいろな状況にも対処できる。

タナは2・5~5ヒロ。ポイントによって大きく変わるので浮き止め糸とシモリ玉を使った遊動シカケがおすすめだ。

エビはホホ掛け

さて、タックルと同じくらい大切なのがエサのエビだ。なにせ生きたエビを使うのがエビ撒き釣りの身上だから、これがないと釣りにならない。
シラサエビは地元だと一合マス一杯で500円前後で入手できる。マキエのことも考えると最低4杯は持って行きたいところだ。生きエビ専用のクーラーボックスが市販されているから、これに空気ポンプ、通称「ブクブク」をセットする。

限られた水量のエビクーラーに大量のエビを入れるため、ブクブクがないとすぐにエビは死んでしまう。せっかく買ったエビが釣り場についたら全滅していたということがないよう、予備の電池も用意しておこう。

また、今の時期は大丈夫だが、夏場の暑い時などは氷のかけらを入れて低温にしておくとエビが弱りにくい。
サシエにするエビは、どれを刺してもよいというわけではない。一見、どのエビも同じように見えるが、その中からアメ色をした透明感のある大きめでツヤのあるエビ、これをしっかり選び出すのだ。

大阪弁でいう「ベッピンさん」のエビをたくさんのシラサの中から選り分ける手間を惜しんでいてはハネは釣れない。実際、よい色つやのエビに付け替えたとたんに良型が掛かったというケースはよく聞く話だ。

そして次に大事なのがエビの刺し方。エビのアタマの横サイド、つまりホッペタ部分の殻だけにハリを刺す。これはホホ掛けと呼ばれる刺し方で、エビが弱りにくい。何よりも生きたエビの活性度が大事だから、少しでもエビが弱らない工夫が必要なのだ。

いかに高価なタックルにこだわったとしても、釣人と魚との接点は、ただサシエの一点にしかないことを忘れてはならない。

マキエは少しずつコンスタントに

さて、サシエを一匹付けてウキを見ていればハネは釣れるというものではない。海中のハネの群れを寄せるためにはマキエが重要だ。
タナが3ヒロまでなら、上マキ、すなわち手で握って撒けばよい。一度に撒くエビの数は10匹前後とごくわずかでよい。一度に大量に撒くよりも、少しずつでよいからコンスタントに撒き続けることが大切だ。

シラサエビは海中に入ると沈まずに水面近くを泳ぎ回る性質があるようで、水面をスイスイと泳がれてはマキエの意味がない。このため、手の中でエビを少し握って弱らせてから撒くとよい。握るとトゲが手に刺さって少々痛いが、大物との出会いのためにはこれくらいは我慢しよう。

朝まずめに神経集中

ハネがよく釣れる時間帯は、圧倒的に朝まずめが多い。エビ撒き釣りは別名「朝バネ釣り」と呼ばれているほどの釣りで、熱心なファンは平日でも出勤前に通うほどの、文字通り「朝メシ前」の釣りなのだ。
時合いは午前7時半を過ぎた頃が多い。これがハネたちの朝食タイムだ。

また、ハネは日によって遊泳層が微妙に変わり、釣れるタナが変化する。釣れるタナがわからない時は、その日、最初に釣った人に「タナはどれぐらいですか?」と素直に聞いてみるのが一番だ。たいてい「3ヒロ!」とか「4ヒロ半」とか元気な答えが返ってくるはずだ。

ご存じのとおり、1ヒロとは約1・5mのこと。両手を軽くいっぱいに広げた長さと一番にいわれているが、注意したいのは釣れた人の身長だ。背の高い人の3ヒロと低い人の3ヒロでは自ずと長さが微妙に違ってくる。
だから「あのひとの身長の3ヒロだとこれくらいかな?」と自分の3ヒロを補正するのである。

まあ、ハネだって「よし!今日は3ヒロ半ちょうどのところを泳ごう」と決めているわけじゃないので、あまり難しく考えることもないのだが、これが遊びの釣りのこだわりの楽しさというものだ。

タナ深い時はエビ撒き器

タナが2ヒロ前後だと水面にシラサを撒けばいいのだが、3ヒロを超える深いタナになると、マキエのエリアが広がってしまって効果が薄れてしまう。そんな時に登場するのがエビ撒き器という便利道具である。

これは茶こしを二つ重ねたような形をしていて、エビを入れてシカケのサルカン部分にセットして海中に沈め、ウキがエビ撒き器の重さで沈んだところで竿をシャクると、くす玉のように割れて中のエビがパッと飛び出すという、実に合理的にできたタックルだ。

エビ撒き器に入れるエビの量は20匹ほどでよい。いちいちサルカンにセットしてエビを入れてと少々面倒ではあるが、こまめにやるほど効果はあるようだ。冬場、タナが深くてハネの活性が低い時などは、最低30分間隔で使用するのが理想だ。

マニアになると手間を省くため、エビ撒き器専用の別の竿をあらかじめしっかりと用意してコンスタントにマキエをする工夫をしている。

アタリはいろいろ

サシエのエビは一投ごとに交換しよう。ズボラはいけない。気のせいかとも思うが、上げてサシエをチェックする時は元気にピンピン動いているのに、水中では死んだふりをしてるエビがいるのではと思える時がある。そんな邪念を払うためにもエビは一投ごとに元気なものとこまめに取り替えた方がいい。

基本的なアタリは、トップがゆっくりスーッと沈んでいくパターンだ。忘れてはならないのは早合わせは厳禁ということ。ウキが沈むと同時に心の中でゆっくりと「いち、にぃ、さん」と数え、しっかり食わせてからカンッと掛け合わせることだ。

日によってはずっと釣れない時間が過ぎていくなかで、唐突にアタリがあったりすると、どうしても気が急いて早合わせをしてしまい、掛け損ねるということになりがちだ。くれぐれもウキが沈みきったのを見届けてから落ち着いて合わせるようにしたい。

また、場合によっては前アタリが出ることもある。前アタリはコツッとトップが動いたり、一度沈んですぐに上がってきたりパターンが多い。
これは、ハネが一度エビを軽くくわえ弱らせた後に本格的にもう一度食う時に出るアタリだという釣人もいる。真実は定かではないが、ともあれ、本掛かり前のわずかな前アタリがあることは事実だ。

前アタリがあると、次には本アタリが待っている。これをとらえるためのサインとしての前アタリをしっかり見極めて掛けた一匹は心の満足度が高く、とっても嬉しいものだ。

前アタリだけが出て本アタリがない時は、軽く仕掛けを引いて誘いをかけてやると、エサが逃げていくと思ったハネが食いついてくることもある。
一般に小サイズのハネほど明確で元気なアタリがあるようだ。いきなりスポッとウキが沈んだら、それはおそらく小物のハネ(セイゴ)だ。

釣れたハネはストリンガーに掛け、じゃまにならない場所で海中を泳がせておこう。そして納竿時にナイフで締めて血抜きすると、よりおいしく食べることができる。

大物は重役出勤

さて、朝まずめがハネの時合いであることは間違いないのだが、スズキサイズになると、日がずいぶん上がってからドスンとくることがある。仲間うちでは、これを重役出勤と呼んでいる。大物はあとから悠々とエサを食いに来るのだ。
早朝の小物のハネたちの食事タイムが終わり、エビを食うだけ食ったハネが散ったあと、しばらくエサ取りのアタリもハネの気配も全くなくなってしまう時がある。

それはひょっとして近くに大物スズキがいて、周りの小魚が逃げ散っているせいかもしれないのだ。油断してはいけない。そんな時をまるで見計らったように突然、奴はやってくる。

ハネもかなり釣れた、早起きしたために眠気も出てくる。もう気配もなくなったのでそろそろ竿を仕舞おうかとボーッとしている時をまるで見計らったようにウキが入る。その時間は決まって日が上がりきった午前10時を過ぎた頃なのだ。

大物になると、ハネのようにウキはスポッと沈まない。根掛かりかと思えるようにジワジワとトップが沈んでいく。掛けた瞬間はさほど引きは強くないのだが、引き寄せて水面に近づくにつれて引きは徐々に強烈となる。

大物の気配がある時はハリスも太めでチャレンジしたい。「1・5号では不安だ、けれども2号はなんか抵抗あるなぁ…」という人のために1・7号という釣人心理を鋭くついた号数のハリスが市販されているのでおすすめだ。

とっておきのサシエ術

さてここで、とっておきのサシエ術を公開しよう。サシエにするエビをセレクトする重要性は先に述べたが、キャリア派はここでもさらにもう一工夫する。
選んだよいエビをエビクーラーに用意した別の容器へあらかじめ取り置きしておき、終盤になると伝家の宝刀として登場させるのだ。

ふつう、釣人はよいサシエを一投ごとに選び出しながら順に使っていくから、そのうちにベッピンエビがだんだんなくなってくる。終盤ともなれば、周りのどの釣人のエビクーラーの中にもよいサシエはもう残っていない。そんな時に、この秘蔵のピカピカエビをそっとサシエにするのである。

周りの釣人のサシエがどれも貧相なものになっている中、自分のサシエだけはピカピカツヤツヤなのだ。当然、自分のサシエにハネが食ってくる確率が高まるというもので、いかにも年期の入った釣人らしい発想で思わずニヤリとさせられる方法だと思うので、ぜひ真似をしてみてほしい。

狙いのポイントは

一文字の壁面は一般に壁状であるが、新しくできた一文字では消波効果が高いスリットと呼ばれるくしの歯状になっていることがある。こうしたところは潮通しがよいために、ハネやチヌなどが居着いていることが多い。

こんなところでまず狙うべきポイントは、際ギリギリの払い出しのところだ。ここでハネが掛かるとスリット内に逃げ込まれることが多く、中に入られてしまえばハリス切れでたちまちアウトだ。

そうならないように、掛かった瞬間に大きく竿を立て、沖側へ魚を出して勝負するようにしよう。だから竿は最低1・5号クラスの磯竿で、柔らかいチヌ竿は絶対におすすめしない。

そして次に狙うべきポイントは沖合10mからその少し先のところだ。一般的に防波堤の周りには大量の捨て石が足下から沖合へ向けて傾斜しながら入っていることが多い。そうしたところはハネたちの通り道になっていることがある。いわゆるカケアガリ狙いだ。

また、釣人の多い時など、多くの釣人がズラリと一列になって釣ることがよくあるが、なぜか頻繁に竿が曲がる場所というものがある。
こうしたところは底にシモリがあるとか、また、潮の流れの加減でみんなが撒いたエビの溜まり場になっている可能性が考えられる。こうした場所をしっかり覚えておいて次回にじっくり攻めてみるという長期戦もよいだろう。

こうしたポイントは上から漫然と水面を見る限りではまずわからない。海はどこを見ても同じ水面がただ広がっているように見えるが、釣人が見つめるべきは、その底の状態であり、様々な事象から海中の様子を想像することなのだ。

ハネは沿岸魚だから大阪湾に限らず全国各地の水域に普通に生息している。紹介したタックルは基本的にたいていの釣り場で通用するはずだ。それに生きエビをエサにするため、メバル、チヌ、ガシラなど、ハネ以外の魚も楽しめる。

問題はシラサエビの入手の困難さだろう。関西ではごく普通に流通しているこのエサも関東ではまだあまりなく、売られていてもとても高価だと聞いている。
これだけ流通というものが高度に発達している時代なのだから、釣果の実績と釣人のニーズが高まれば、同じ楽しみをもっと多くの人と共有できると思う。エビ撒きのハネ釣りをもっと多くの釣人が楽しめるようになることを願ってやまない。

<コラム>
エビ撒きフリークたちの会話

潮か何かの加減でいくらエビを撒いても釣果さっぱりの日、釣人たちが撒いたたくさんのエビたちがツイツイと水面を優雅に泳いでいることがある。「高いエビをいっぱい撒いたのに、なんで丸ボウズなんだよ!」とブツブツ呟く日もままある。

それでも釣人はエビを撒くことをやめない。ある釣友は「エビを撒いているのではなく、将来の釣果を海に貯金しに行っているのだ」と主張する。ただし、撒いたエビが釣果に化けて満額返済される保証は全くなく、それがいつになるのかも皆目わからないのが辛いところである。

また「ワシらの撒いたエビのおかげで大阪湾のハネを10cmくらいは大きく育てたのとちゃうか?」と言い合うこともある。そんな時、決まって「ええやんか、いつかスズキになって帰ってくるんやから」と答えるものの、これも全く保証がない。

「ハネ釣りに行ってくる」とはいわず、「エビ撒きに行ってくる」という、ハネを釣りしたいのかエビを撒きたいのかよくわからない人もいる。
ちなみに岸和田には「泉州ハネ釣り研究会」というバリバリの腕達者ぞろいのクラブがあるが、彼らの冗談交じりの裏の別名は「波止のハネ養殖隊」だ。

海を見たらエビを撒かずにおられないエビ撒きフリークたちは今日も大阪湾のどこかで、せっせとエビを撒いてハネの養殖にいそしんでいる。



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