山入水晶




自宅の机の隅にいつも鎮座している水晶がひとつ。

涼しげに光るこの六角錐の鉱物は、手にすると意外なほどずっしりと重い。
なかを覗くと、ちょうど年輪のような感じで山の形に筋が入っているのが解る。
一般に「山入水晶」と呼ばれているものである。

中央にうっすら見えるこの筋は、太古の昔、長い年月をかけて水晶が徐々に結晶化し大きくなっていく過程で、何らかの原因によりその成長がいったん止まった証なのだという。

長い停滞期間のあと、やがて再び成長を始めた時、その停滞が目にみえる形で内部に残るのである。

こうした事から「山入水晶」は、成長や再生、復活、飛躍、克服などの象徴として人々に好まれてきたという。この水晶は停滞線が数ミリ幅で二本入っているから、つまり二度の停滞を経て今の姿にまでなったわけである。

水晶の主成分は珪酸で、珪素が酸素と結合して成長した鉱物である。一説によればわずか1ミリ成長するのに100万年ほどかかるらしい。
最初の停滞線から目測しても10ミリはあるから、この水晶は最低でも1000万年かけて今のサイズにまでなったということになる。二度の長き停滞のブランクを経て、なお成長を諦めなかった「不屈のエネルギッシュ水晶」なのである。

・・・普段、占いやおまじない等はてんで信じない私ではあるが、なぜかその神秘的な理屈に魅せられてつい買ってしまったのだ。

人は生きている以上、その歩みが滞ることはままある。どちらかと言えば人生に鷹揚な私でも、時折、イヤになるくらい仕事や考えが停滞する事がある。

そんな鬱屈たる思いが募る時、深夜ひとりでこの水晶を透かし見ては気持ちを新たにし、幾ばくかの元気をこの「山々」からもらっているのである。




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