ワケありな棒ウキ



防波堤からの海釣りを趣味にし、ウキを自作し始めてもう10年を越えた。
円錐ウキ、棒ウキと様々に試行錯誤を繰り返してきた。完成品は、ひとつひとつに通し番号を付けている。

棒ウキはクジャクの羽を断面が半円形になるように縦割りし、各部分の太さを調整しながら二枚貼り合わせて一本のボディを作る。
塗料はウルシを一回塗るごとに乾燥させては研磨し、何度も何度も重ね塗りしていく。

さて、今回もそうしてせっせと製作に励んでいたのだが、完成が近づいた頃、数ミリの赤い一本の繊維がボディに塗り込められている事に気づいた。

そうか・・・思い出した。ウルシ塗り立ての際、誤って取り落とし、服の上にベッタリとくっつけた事があった。その時着ていた赤いセーターの繊維が入ってしまったのだ。

昔の私なら、即ウルシを削り落とし、最初からまた塗り直しただろう。
だが、今回はなんとなく「そのまま使えばいいや」という気になってしまった。

誤って塗り込められた繊維、それはウキの汚点であり、工芸品の風格を目指す私の美的センスに反する。だが、なぜか今回は、直そうと思えば直せるのに、この傷をウキと共生させて、そのワケありウキを使うのも別にまぁいいではないか、という気になってしまったのである。こんな気持ちは初めての事だ。

う~ん、ちと歳とって鋭気が失せたか…。



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