日本の森を救う35の処方箋。
===このページは、私の古くからの友人でもある森林ジャーナリスト、フリーライター田中淳夫氏の著作を紹介するページです。===
田中淳夫氏の活動について、詳しくは彼の個人ホームページ「安楽椅子探検家のバーチャル書斎」をご覧ください。最新刊をはじめとする新情報は、そちらで紹介されています。
田中淳夫・著書紹介
伐って燃やせば「森は守れる」
燃やすことによって成り立つ生態系もある!
森林と人間社会が共存できる方策を、大胆な発想の転換で導き出す。
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著者 田中 淳夫
出版元 洋泉社 03-5259-0251
定価 本体1600円+税
発売日 1999年 2月26日
ISBN4-89691-365-5
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森林の未来を明るくできる処方箋
木を伐採する、あるいは森を燃やすというと、誰もが「森林破壊」という言葉
を思い浮かべるだろう。たしかに伐採や山火事は森林の生態系を大きく変える要
因だ。しかし、破壊するだけなのだろうか。そこから新しい可能性は広がらない
ものか。
私の執筆は、この疑問から始まった。森を伐採し、木を各種の材料や燃料など
に利用することは、人間の生活に欠かせない。もしこの利用を「森林破壊」「自
然破壊」と決めつければ、人間の生活さえ否定的にならざるを得ない。
いまや森林問題は、ブームを通り越して地球的課題になっている。一九九二年
の地球サミットでは、テーマが森林の開発だった。九七年に京都で開かれた第3
回地球温暖化防止会議でも、森林による二酸化炭素吸収に期待が集まった。いま
や単純な「自然を守れ」という次元ではなく、人類の生存にも関わる問題として
森林に注目が集まっているのだ。
だが、その割に話題になるのは「いかに地球上の森林は危機に瀕しているか」
であり、「いかに人類は森林を破壊し続けているか」という告発である。そして
「森林破壊を止めろ。伐採を止め開発するな」という合唱で終わっている。
しかし、森林の伐採さえ止めれば森林が救われるという発想は、あまりに単純
で近視眼的だ。伐採で収入を得ている人もいれば経済を成り立たせている地域や
国がある。伐採を中止すれば失業者が街に溢れ、物価は高騰する。そして木質材
料が無くなると日々の生活に支障をきたす社会がある。「伐採を止めろ」と叫ん
でいる人々の生活さえ脅かすだろう。社会や経済が混乱すれば、濫伐・密伐が進
み森林も破壊される。自然保護と経済は対立する概念ではないのである。
そこで自然界では、伐採に相当する破壊はどこまで許容できるのか調べた。す
ると意外なほど「破壊」に依存している生態系が多い。人工林はもちろん雑木林
や原生林でさえ、一定の破壊なくして維持できないことがわかる。竹林のように
日本の森林を脅かす存在もあるし、山火事や洪水がないと消えてしまう生態系さ
え存在するのだ。ということは、人間の破壊行為=伐採を生態系に組み込むこと
は可能なはずだ。
山村のあり方についても踏み込んだ。森林にもっとも身近な社会が崩壊して
は、人と森林の共存は不可能だからである。村おこし資金はどこから出ているの
か、必要な林道とは何か、人口が少ないことは不利なのか……。みんな原点にも
どって考え直してみた。木材の利用法も抜本的に考え直すと、ハイテク新素材に
生まれ変えたり燃やして電気に変換する手立てもあった。それは山村の姿を劇的
に変える可能性を秘める。
一方で、人は様々な緑化に取り組んでいる。同時に環境保全に気を配った林業
を推進する制度も生まれつつある。そんな最前線を追いつつ、森林も人間も豊か
になれる方策を模索した。もちろん生半可なやり方では達成できないかもしれな
いが、決して絶望することはないのである。
目次
まえがき 人は自然を「破壊」して学ぶ
第1部 森林の“本当の姿”を知る
1.雑木林を伐り続ければ「自然が守れる」
2.生物の多様性を奪う竹林は即刻伐採せよ
3.「人のため」より「森のため」に人工林を伐る
4.原生林を特別視するのはもうやめよう
5.適地を無視したブナ植林は洪水を防げない
6.山火事が森林の新陳代謝を促進する
7.ダム政策を再考し適度な洪水を起こす必要がある
8.<生態系>を維持する奈良公園のシカと糞虫
9.マツクイムシ駆除と農薬の空中散布問題の疑惑
10.ケナフは地球温暖化防止の救世主にはなれない
11.適度な自然破壊が人と自然の共存空間を生む
第2部 山村・森林・木材の活用が“自然環境”を救う
12.人が安らぎを感じる森は人の手が入った森林
13.通り抜けるだけの大規模林道は林道にあらず
14.山村の過疎は人口より年齢構成を問題にすべきだ
15.山村を骨抜きにした日本の税金バラマキ行政
16.木材は100パーセント利用できる理想の資源
17.素材研究が進行中四角い丸太と木材の液体化
18.ノウハウを誤れば逆効果、木炭の驚異の水質浄化力
19.木炭は電磁波と汚染物質を遮断する注目の新素材
20.「炭焼き」を二十一世紀の花形産業にする方法
21.原発、石油・石炭発電に代わる木材発電の可能性
22.石油の熱効率に匹敵する木材ガスに着目せよ
23.木材エネルギーを自給できる山村の未来は明るい
第3部 緑化と森林の<持続的維持>が可能な方法
24.アマゾンの森をガーディニングした先住民たち
25.“完全な沙漠”に緑は絶対に甦らない
26.水なしで育つ人工植物の誕生
27.熱帯雨林の再生の助っ人はキノコ
28.雲仙・普賢岳の麓に森林を再生する方法とは?
29.環境林とビオトープが作るエコ・シティ構想
30.お客様意識のボランティアより森林無償貸与制度
31.山村を<総合商社>にして林業を<森林生態系化>する
32.森林経営に国際規格「ISO14000」を導入せよ
33.消費者が支える環境保全型林業と森林認証制度
34.利害調整と生態系感他の発想が地球環境を救う
35.人と自然は各々の取り分を認め合って共生できる
あとがき フィールドワーカーのジレンマ
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第一部第六章
山火事が森林の新陳代謝を促進する
一九九七年から九八年にかけて、世界中の熱帯地域の森林が、火に包まれた。
この火事で、インドネシアとアマゾン地域では、それぞれ二百万ヘクタールが焼
失したと言われている。さらにマレーシアやフィリピン、コロンビア、アフリカ
諸国でも火の手は上がり、その煙は海を越え人々の生活を奪った。インドネシア
では煙害による視界不良が原因と思われる飛行機事故まで起きている。観光業も
大打撃を受け、住民の健康被害も含めれば、その被害総額はどれほどになるか見
当もつかない。
この森林火災は、直接的には農園開発のための火入れや、地元民の焼畑の火が
飛火したものだが、その背景にはペルー沖の海水面温度が上がるエルニーニョ現
象がある。今世紀最大と言われたこの年のエルニーニョは、世界中に異常気象を
引き起こしたが、東南アジアなどでは旱魃となった。多雨気候のこの地域に、そ
の一年間ほとんど雨らしい雨は降らなかったのである。おかげで本来ならすぐ消
える火も拡大する一方になった。結局火災が消えたのは、エルニーニョが終息し
て雨が降り出した九八年の春以降である。
私は、九八年の夏にボルネオ(マレーシア・サラワク州)を訪れ、森林火災の
後を訪ねたが、その規模の大きさにショックを受けた。飛行機で飛べば、眼下に
巨大な茶色の染みが数限りなく広がる。染みの中には、枯れて枝葉を落とした巨
木や、焦土に爪楊枝をぶっちゃけたように倒れている木々があった。ところに
よっては地平線まで枯れていた。直接炎に焼かれただけでなく、煙害や旱魃の影
響で枯れた森林もあるようだが、いずれにしても熱帯雨林に大被害をもたらした
ことは間違いない。
熱帯地域に限らず、火事は森林にもっとも影響を与える事態だろう。シベリア
のタイガでも、毎年一万五千件の火事が発生して森林が焼けていると言われる。
日本でも、年間数千件の山火事が報告されている。それだけに火事は、森林の大
敵というのは自明の理であるかのようだ。だが、本当にそうか。
「たしかに熱帯雨林でこれほどの火事が起きたのは珍しいかもしれませんが、世
界には火事に会うのが当然で、それを前提にした生態系ができている地域もある
んですよ。たとえばカナダやアメリカやオーストラリアですね。これらの地域に
は、火事に依存する生態系、ファイヤープロン・エコシステム(頻火生態系)が
成り立っています」
と言うのは、岐阜大学流域環境研究センターの津田智助教授。
これらの地域の森林は、もともと乾燥気候のうえ、雨を伴わない雷が多く、自
然発火しやすい。同じ場所が数年に一回焼けている例も珍しくない。プレーリー
の高茎草原では一〜五年ごと、ポンデローサパイン林では五〜十年ごと、チャパ
ラルと呼ばれる低木林では平均三十五年周期で燃えているというデータがある。
だから生育している生物も、それに適応しているのだ。そして火事を待ち望んで
いる。
なぜ樹木を焼く火事が、森林に必要なのだろうか。
「北アメリカに自生するジャックパインやロッジポールパイン、ノブコーンパイ
ンといったマツ類は、その球果(マツカサ)は、鱗片がヤニでくっついており、
なかなか開かないんです。しかも成熟しても枝から落ちないで何年も木の上に付
いたまま。このヤニは摂氏四十五度にならないと溶けないため、火事にでもあわ
ないと開かないわけです。開かないとその奥にある種子は散布されません」
火事を必要とするのは種子の散布のためだけではない。これらの木は乾燥した
貧栄養土壌に生える陽樹である。つまり林冠が覆われ林床が暗くなると稚樹が育
たない。やがて森林が老齢化し、林床に耐陰性の強い木が育つ。そして樹種が置
き替わってしまう。百年も火事がないと、ジャックパイン林は姿を消さざるを得
ない。すると生きていけなくなる野生動物も出るだろう。
一方、火事にあうとジャックパインの葉は燃えやすい。落葉落枝が燃えると土
壌にミネラルを供給するうえ、高木がなくなり光もよく当たるようになる。だか
ら種子の発芽率も高く、新たなジャックパイン林を形成できる。まさに山火事が
適応した森林なのだ。
オーストラリアのヤマカガシ科の一種は、果実が乾燥して反らないと種子が出
ない性質があり、これも火事があるとよく散布される。ほかにも地上部が焼ける
と芽吹く根や地下茎、埋没種子、また煙に当たると開花するものなどいろいろあ
る。
日本でもヤケアトツムタケ、ヤケノシメジといったキノコ類は、名前のとおり
焼け跡によく生えることで知られる。ハギの種子は熱が加わると発芽しやすい性
質がある。だからハギは山火事があると、真先に伸びるのだ。クヌギやコナラな
ども焼け跡から萌芽を出し更新しやすい。
火は、森林には大敵のようだが、益も多くもたらす。ある種の植物にとって、
種子の散布に必要だったり、熱や煙の刺激が発芽や開花などへ影響を与える種も
ある。さらにライバルを減らす効果もある。火に弱い樹種や草がいなくなるの
だ。その間隙を縫って萌芽を伸ばしたり発芽すれば、優占した生態系を築けるの
だ。
そして土壌には栄養を与える。それは灰分がミネラルになるほか、熱が土壌中
の微生物を活性化する意味もある。地表が焼けて黒くなれば熱吸収がよくなるう
え、直射日光が当たることにより地温が上がる。それが窒素固定バクテリアなど
の活性を高めるのだ。
一方、人間にとっても森林火災が有益なケースも出てきた。オーストラリアで
は、アボリジニー(先住民)が火入れしてきた永い歴史がある。狩りに便利なよ
うに背の高い草を焼いたのだ。ところが現代になって火入れが行われなくなる
と、乾期に大規模な山火事が起きるようになった。これまでの火事とは規模が違
い、人も動物も焼き尽くす大火災である。そこで再び人工的に草原や疎林を焼く
ようになったという。
同じことはカナダやアメリカでも報告されている。自然発火しても、人間がど
んどん消火活動をして火事を起こらないようにしていると、落葉落枝が蓄積され
る。それは燃料を蓄えるようなものだ。そして消火が間に合わない事態になった
時、おそるべき損害を与える火事となるのだ。
そこで人為的に火事を起こすケースも現れた。たとえばカナダのバンフ国立公
園では、一九八〇年から定期的に人工山火事を起こしている。小規模な火災を起
こしておけば、大きな被害は出ないからだ。同時に、森林の若返りにもなる。こ
れをコントロール・ファイヤーなどという。
森林火災といってもいろいろある。まず地表の草木や枝下までの樹皮が燃える
程度の地表火。次に樹幹まで焦げる樹幹火。そして木の上まで全部燃えてしまう
樹冠火。これらはダメージがまったく違う。焼け方によって森林への影響は違っ
てくるが、いずれにしても森林の更新には結びつく。火事にあったら森林はすべ
て滅んでしまうと思い込むのは危険だ。たいてい焼け跡から一斉に芽吹きが始ま
実は湿った熱帯雨林でさえ、何度も火事が起きている。ボルネオ島では、一九
八二年〜八三年に大火災があり、四百五十万ヘクタール(九州全土以上)が燃え
てしまったことがある。またアマゾンでも、土壌に含まれる木炭の研究により、
数百年単位で大規模な火事に何度もあっていたことが確かめられた。しかし、熱
帯雨林はその度に再生した。
「私もカリマンタンを訪れ火事にあって数年後の森を見ましたが、ほとんど見た
目は焼けたことを感じさせません。樹形の変化や幹の焦げ跡などでわかる程度で
す。巨木もありました。火事にあったからと言って、全ての木が枯れてしまうわ
けではないんです。林床を中心に火が走るだけなら、太い木は表面が焦げるだけ
で生き残れます」
今回の世界的な森林火災も、回復する力が充分にあると信じたい。
「熱帯雨林でも、時間をかければ必ず元にもどります。むしろ心配なのは、焼け
跡を森林以外に転用してしまうことです。森林がなくなったから農地にしてし
まったりすると、二度と森林は再生しませんからね」
管理され、規模も限られているという条件付だが、山火事を起こさねばならな
い、起きた方がよいケースもあるのである。
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著者略歴 田中淳夫(たなかあつお)
1959年大阪生まれ。静岡大学農学部林学科卒業。出版社、新聞社勤務を経て、
現在フリージャーナリスト。主にアウトドアや自然科学、農林業や山村問題に関
する記事を執筆しており、東南アジアや南太平洋の島々を好んで訪れる。著書に
「不思議の国のメラネシア」「チモール知られざる虐殺の島」(共に彩流社刊)
など多数。
QZB00524@nifty.ne.jp
田中淳夫のホームページができました。
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「森を守れ」が森を殺す!|山は学校だった|チモール 知られざる虐殺の島(増補版)
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