W.E. tubes Part 1

 

Left to right 209A,216A,217A          

WE209A  左から W.E.209A,216A そして217Aです。
 W.E.(ウエスタン エレクトリック社 以下は省略します)209Aは、1919年に登場し3年程度しか生産されなかった102シリーズ同等管です。
 初期の同社丸球共通の特徴ですが、ガラスステムの先端から同じくガラスのロッドを垂直に伸ばしてプレート、グリッドおよびフィラメントの吊り金具を支持する構造になっています。 ただ、この構造は、水平方向の衝撃に大変弱く、ガラスステムとロッドの付け根部分で折れやすかったようです。 写真の209Aもやはり折損しています。 なお、この構造は、すぐに改良されることになりました。
 216Aは、1922年に登場した101シリーズ同等管です。 最大の特徴は、上記のガラスロッドを構造材に採用せず、波板状のプレートをガラスステム下部で直接固定している事でしょう。 この球は、同社の初期の7Aアンプにも採用されましたので、ご存じの方も多いかもしれません。
   217Aは、同社唯一の丸球整流管で、216Aと同時に登場しました。 構造的には、216Aからグリッドを取り除きプレート間隔を狭くしたものです。 この球も7Aアンプの電源である2Aに採用されました。
 なお、3本ともベース底面は、ワックスでコーティングしてあります。 これも初期の丸球共通の特徴です。


 

Left to Right 101D(metal base),101D,D-86326,101F and N.E.101F

WE101DWE101F
 左から 101D メタルベース,101D,D-86326,101F,N.E.101F です。
 101シリーズの原型は、1915年頃登場しました。 米国で長距離電話が発達出来たのもこの101シリーズが存在したからでしょう。 なお、101から205の各シリーズの真空管は、100% 業務用で、当時一般のユーザーの手には入りませんでした。
 101D メタルベースの物は、1921年頃登場した真空管で、上の209Aで紹介しました構造上の弱点は改善されています。 つまり、ガラスロッドの接合点をステム上部先端から同側面下部に変更され(接合部の面積が大きくなり)ました。 これにより、ガラスロッドの折損は、激減したようです。
 次の101D モールドベースのタイプは、少し遅れて1925年頃に登場してきます。 これは、コストダウンの為とメタルベースの底面コ−ティングに使用されたワックスが熱に少し弱かった等々いろいろ原因が有ったようです。
 D-86326 は、1929年頃の製品です。 W.E.社には、D-Spec.(D 仕様)という特定の用途のために限定生産もしくは既製品の中より選別された特別仕様品(真空管に限らずいろいろなパーツにも D-Spec.が存在します)が有ります。 このD-86326 は、101Dを元に特定用途(高絶縁性)用に限定生産された真空管につけられたコード番号です。
 なお、この時代の101Dは、グリッドが改良されています。 以前は、フィラメントの両側に梯子のような形状のグリッドを配する構造でしたが、通常(2A3や300B等々)のように1本の線材をフィラメントを囲うように螺旋状に巻いていく構造に代わっています。
 最後の2本は、101Fで1927年頃登場しました。 101Fは、フィラメント電流を約半分にして101D と同じようなエミッションを得られるようにした改良品です。 左がW.E.製で、右端が Northern Electric製(W.E.社のカナダ子会社で、カナダにてW.E.製品を製造していました)です。 共通の特徴として、プレートは閉じた構造に代わりました。 プレートの光沢やフィラメント吊り金具の固定方法に少し違いは有りますが、ほぼ同一の物です。 ただ、N.E.の方が若干製造が古いようです。
 なお、丸球の時代はST管の時代のように製造ロット番号が入れられていませんので、はっきりした製造年は特定できませんが、大体の年代を特定できるヒントがいくつか隠されています。 興味のある方は、一度調べてみて下さい。
 

Left to right 102D,102G,N.E.102F          

WE102D  左から 102D,102G,そしてN.E.102Fです。
 102シリーズの原型も101シリーズ同様1915年頃登場しました。
102Dは、その後1922年頃からの製品です。 電極構造は、前出の209Aとほとんど同じですが、ガラスロッドの位置は改良済みです。
 プレートがグリッド面より小さいので、101Dのところで説明しました梯子段のようなグリッドの様子が分かりやすいかもしれません。
 101D同様1925年頃には、モールドベースの物に切り替わりますが、ここでは省略しています。
ここまで紹介した各真空管は、すべてゲッタを採用していませんが、次の2本は、ゲッタを採用するようになった年代の製品です。
 102Gは、1928年頃登場した102Dの改良品です。 外観、電気的特性は、ほぼ同一ですが、細部をよく見てみると各所に改良の後がみられます。 また、ノイズの点でも改良されており、当時のオーディオアンプにも使用されたようです。
 最後は、102Gより1年早く登場した同じく改良品(長寿命型)の102Fです。 ここでは、N.E.の物を紹介しています。 外観は、前出の101Fに感じがよく似ていますが、プレートは、一回り大きくなっています。
 ところで、どうしてこの様な球形の真空管が出来たのかという話ですが、真空管のルーツは電球から来ています。 当時の(正確には、もっと前から)電球は、球形の物が多く(今でも電球は丸いでしょ)サイズはインチ表示で各種製造されていました。 真空管黎明の時代この製造技術を拝借したのです。 この為、最初期の真空管は、球形や直管あるいは両者合体形の物となりました。
 W.E.社も(直径)2 3/8(2か8分の3)インチ(約60mm)という当時良く用いられていた電球の規格サイズを拝借して試作品を造り、製品化に至りました。 ここで紹介している丸球は、その子孫と言うところでしょうか。(当時の2 3/8インチ エジソン電球と並べますとピッタリ同じです) 


 

Left to right 104D(metal base)、104D and N.E. D-86327

WE104D  左から104Dメタルベース、104D、N.E. D-86327です。
 104シリーズの原型は、少し遅れて1917年頃登場しました。 なお、このシリーズは、出力管として開発されたとも言われています。
 104Dメタルベース は、1922年頃登場してきます。 グリッドのピッチ以外(101は9本、104は7本)101シリーズと構造は同一です。
 次の104Dモールドベースは、同じく1925年頃の登場となります。
 D-86327は、前出のD-86326同様 D-Spec.球です。 ここでは、N.E.の製品を紹介しています。 D-86327も高絶縁性(特にプレートとグリッド間)を得るための別注品です。 この為、プレートのリード線はガラスステムを通さず、その下部から直接引き出す方法を採用しています。(D-86326も同様です) 211や801(VT62)等と同じ方法と言うと、お分かりいただけると思います。
 ここで、ドイツを中心に同様の用途で使用された初期の German Post tube と比較しますと各々国民性が現れていてちょっと面白いです。 W.E.の製品は、ご覧のように102シリーズを除くと各シリーズ全く同一のパーツ(プレート板等々)と外形をしています。 電気的には、101シリーズは、104や次の205シリーズよりプレートが小さくても良いわけですが、恐らく量産性(コスト)を重視した結果でしょう。 米国らしい合理主義と大らかさを感じます。
 一方 G.Post の方は、プレート損失が増すごとに設計を起こして、プレートを中心に各パーツ、外形のサイズが大きくなります。 完璧思考と言うか理想主義のドイツらしさを感じます。      


Left to Right 205B,205D(metal base),205D,CW-931(VT-2) and DUOVAC version VT-2

WE205DWE VT-2

 左から 205B、205D メタルベース、205D、CW-931(VT-2)、DUOVAC VT-2 です。
 205シリーズは、今までの100シリーズとは少し用途が異なり、小型送信管あるいは出力管として開発され、1917年頃登場しました。
 205Bは、1919年頃からの製品で、フィラメントは 209A同様初期のねじりを加えたタイプをまだ採用しています。 グリッドは、10本(上下の間隔材を除く)です。 また、ガラスステム内のリード線には、初期の真空管の特徴で有る白金細線を使用しています。
 ちなみに、1923年頃デュメット線(Dumet wire)というガラスの熱膨張率により近い合金が開発され、以後高価な白金線等に替わり世界的に順次使用されるようになりました。 ガラスステム内の赤色の線がこのデュメット線です。
 なお、205シリーズは、ベース部分のガイドピン位置が、100シリーズより45度ずれた位置に付けられています。 100シリーズとの誤使用を避けるためでしょう。
 205D メタルベースは、1924年頃から205Bの改良品として登場します。 大きな改良点としては、前出のD-Spec.球同様、プレートのリード線を直接ステム下部から取り出している点です。 送信管としての使用も意識したためでしょうか。 この点は、以後の205Dや205Eでも同様です。
 また、細部ではグリッドが11本と205Bよりピッチが少し細かくなっております。
 205D モールドベースは、他のシリーズ同様1925年頃からの製品です。 写真の球は、まだ旧来の構造(梯子段状の2枚グリッド)ですが、1920年末頃には、普通の螺旋ループの物に置き換わります。(ここでは省略します)
 VT-2は、205シリーズの軍用管に付けられた名称で、主に小型送信管として使用されたようです。 また、海軍用に出荷された物は、CW-931の別名称でも呼ばれていました。 なお、CW のWは、W.E.社のWで、931はコード番号です。 この他、RCA社なら CRC,United Electronics社なら CUE等々とCプラス会社名(W.E.のみ1文字、他社は大体2文字)を表しています。 もうお分かりと思いますが、例えば、RCAが2A3を海軍に納入する際は、CRC-2A3と記入し時代によっては錨マークも入ると言った感じです。
 VT-2は、1917年から採用されましたので、その時期により同じVT-2でも電気的に2,3タイプが有るようですが、現在たまに出回る物は、VT-2 = 205Bと考えて間違いないと思います。
 最後は、DUOVAC社から一時出された同じく VT-2です。 同社は、1929年設立で、主にラジオ用の真空管を製造しておりました。 W.E.は、1930年頃205Bの生産を終えましたので、その後軍から発注された物と思われます。 同社のデーターシートによると、Vf=7.0V If=1.35A Vpmax=350V プレート損失15Wとなっています。 なお、写真の球は、陸軍に納入された1932年製の物です。
  (丸い球ばかりで、少々疲れてしまった方もおられるかもしれませんが、もう少しですので、がんばって下さい。 この辺が、米国球のつらいところかも。)    


Left to right 205E,N.E. R205D,De Forest 405D    

WE205E  左から 205E,N.E. R205D そしてDe Forest 405Dです。
 205Eは、1926年に登場した205シリーズの最終版丸球(205FはST管のみ)です。 205Dにノイズ対策を施した改良版ですが、外見上はまず区別が付きません。 主にPAアンプ用出力管に使われました。
 最後の2本は、少し興味深い真空管です。
 R205Dは、N.E.社製の真空管で、同社ではRを頭に付けた、いわばRシリーズを一時期製造していました。 このR205Dは、その1本です。 特徴は、今まで紹介してきた丸球の中で、唯一(300B,2A3等と同じ)UXピンを採用している点でしょう。 また、モールドベースもW.E.より少し肉厚の物を採用して有ります。 なお、UXベースを採用した理由、用途等は残念ながら不明です。
 405Dは、De Forest社の205Dです。 De Forestが205D(405D)を当時製造していたとは、この球を見るまで知りませんでした。 各種文献にも紹介されておりません。 
 もっとも、同社は初めて3極管を発明した会社ですし、米国での真空管に関する最古参の会社です(3極管に関する種々の基本特許も同社が所有していました)から、205Dぐらい製造しても当然かもしれません。 年代的には、400番シリーズ(10系を御参照下さい)の一環と思われますので、1929年頃の製品と思われます。
 外観は、丸底フラスコを逆さまにした様な独特の形状で、プレートの大きさや材質はW.E.とほぼ同じで、グリッドの構造も基本的に同じですが、より近代化されています。 また、各電極の支持方法は、上下2本のガラス棒で支持する方法を取っています。
 このシリーズに関する特許を持っていたW.E.との関係は、当時どうだったのでしょうか。 今から70年ほど前のことですが、今でも心配になってしまいます。     


TUBE DATA
ITEM	Vf(V)	If(A)	Va(V)	Vg(V)	Ia(mA)	Ri(ohm)	Gm(mA/V	u	Ra(ohm)	Po(W)	Pa(W)	 	
101D	See TUBE & VALVE DATA 
101F	See TUBE & VALVE DATA 
102D	2.1	1.0	130	-1.5	0.80	58K	0.51	29.6		---	
102F	2.1	0.50	130	-1.5	0.85	50K	0.62	31		---	
102G	2.1	1.0	130	-1.5	0.65	60K	0.50			---
104D	4.5	1.0	130	-20	25	2100	1.18	2.5		0.16
205D	See TUBE & VALVE DATA 
205E	See TUBE & VALVE DATA 

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