American types

 

Left to right PX2100(TUNGSRAM)、PX2100 later type(TUNGSRAM)、PP3/425 (MAZDA)
PP3/425 later type(MAZDA)、A710(VISSEAUX)、10(NEOTRON) 

PX2100A710

 左からPX2100旧型(TUNGSRAM),PX2100(TUNGSRAM),PP3/425旧型(MAZDA), PP3/425(MAZDA),A710(VISSEAUX),10(NEOTRON)です。
 当ギャラリーの前文でも述べましたが、真空管開発に関して2大勢力であった米国と欧州各国は、表面上お互いに相手の動向に左右されず独自の製品開発を行っていたわけですが、その例外的な物も一部存在しています。 特にこのコーナーで紹介しています10や50系の真空管がその代表例と思われます。
 これらの製品は、1930年代初め頃から欧州のメーカーで製造されたようです。
 最初のPX2100は、英国TUNGSRAM の物で、210(10)とほとんど同特性で差し替え使用の出来る真空管です。 プレートは、250(TUNGSRAM ではPX2500)と兼用にした為かかなり大型のサイズで、米国のUX250 よりも一回り大型です。 また、プレートは、コの字型の堅牢な鋼材で支持されており大変耐震性を重視した構造をしています。 ベースは、ガイドピン付きのUXタイプです。
 次も TUNGSRAMのPX2100 ですが、少し後の製品と思われます。 各電極は、同じ物を採用していますが、プレート支持方法がより簡略化されています。 フィラメントは、旧タイプ同様オキサイドコートタイプの3本吊りですが、ベースは PX25などと同じB4タイプとなっています。
 英国MAZDA の210 同等管が、PP3/425 です(ただし、バイアスはかなり深め)。 名前は有名なPP3/250 に似た(ガラスグローブも同じ)球ですが、こちらはあまり知られていないかもしれません。
 プレートは、本家米国の210旧タイプの物と大きさや外観がそっくりですが、その加工精度や仕上がりは、MAZDA の方が一枚上手のようです。 フィラメントは、オリジナルの210同様トリタンを使用しています。 また、ベースは、B4タイプのみで、UXタイプは生産されていないと思います。
 PP3/425 の発売時期は特定できていませんが、PX2100 同様1930年頃には市販されていたようです。 なお、PP3/425 の当時の価格は、1クラス上の同社PP5/400 と同じか少し高かったよう(PX2100もほぼ同じ)です。 結構高価な真空管でした。
 次もPP3/425 ですが、少し後の製品です。 プレートは、新型の箱形タイプ(米国の210でも同様のタイプが存在します)で、外形は一回り小型化されています(写真ではかなり小さく見えてしまいますが、撮影位置のためです)。 フィラメントは旧型同様トリタンの2本吊りです。
 最後にフランス版の210(10)を紹介します。 A710 は、フランスの有力メーカーの一つ VISSEAUX社の210 同等管です。 この球は、各電極の形状、構造等々ガラスグローブの大きさを除き米国のUX250 に非常に近い物です。 また、フィラメントも250 同様オキサイドコートタイプを使用しています。 写真の A710 は、B4タイプですが、UXベースも製造されていました。
 次もフランスの10です。 表示は、NEOTRON ですが、製造は A710 と同じ VISSEAUX社と思われます。 外観は、米国の50(ST19)そのものと言っても良い大型管ですが、グリッドピッチが異なりますので、当然10として動作します。 なお、本国の米国でもST19 サイズの10は、ほとんど存在しないと思います。 ベースは、UX,B4どちらも造られていました。
      


 

Left to right A750(VISSEAUX)、UX-250(MAZDA)、E165A(RT)

A750  左からA750(VISSEAUX)、UX−250(MAZDA)、E165A(RT) です。
 50系のところでも述べましたが、米国で250 が登場した1928年頃、欧州では(送信用真空管を除き)250ほど出力の取れる真空管は市場に登場していませんでした。 当時、250が欧州市場に与えたインパクトは、結構大きかったと思われます。
 事実、ここで紹介しています同等管を含め欧州各国でも250 同等管が例外的に生産されています。
 VISSEAUX のA750 は、今回紹介する球の中で一番オリジナルに近いタイプの真空管です。 前出のA710 と各電極のパーツは共通です。 ガラス形状は、A710 より少し太めの物を採用していますが、オリジナルの250 よりは少し細めです。 ただ、裾の部分がWE252A の様にくびれている為、見かけより太く感じられます。
 なお、同社は、後年SYLVANIA からライセンスを取得し、6L6G,6V6G などの米国タイプ真空管も生産しています。
 次の一見 PP5/400 に見えるのが、(英国の)MAZDA製の250 同等管で、名称は UX-250 とオリジナルのまま付けています。
 英国のMAZDA が250 同等管を製造していたとは意外に思われる方も多いかもしれません。 各電極や構造は、PP5/400 と良く似ています。 このUX-250 からPP5/400 に発展していったとしたら大変興味深いのですが、実際のところは、PP5/400 が先で、UX-250 はそのバリエーションと思われます。 つまり、1930年代初め以降の製品と言うことになります。
 プレートは、PP5/400 より若干長く、厚み(奥行き)は、2倍近く有ります。 また、フィラメントは、オリジナルと同じリボン状M字型の2本吊り(PP5/400 は棒状フィラメントの4本吊り)となっています。 また、ベースは B4タイプです。
 なお、このUX-250 は、当時 MAZDA 発行のバルブマニュアルには、一切登場していません。 少し特殊な存在であったのかもしれません。 ちょっと面白い真空管です。
 次は、フランスの老舗メーカーの一つ RT(La Radiotechnique)社の250 同等管 E165A です。
 今回紹介している250 同等欧州管の中でも一番古い球と思われます。 RTは、オランダのPHILIPS社に1931年買収されフランスPHILIPS となりましたが、このE165A はロゴなどの特徴から買収前の製品と判りますので、それ以前(おそらく1920年代末)の球と言う事になります。 ただ、この E165A に関する資料はほとんど存在せず、紹介している文献は皆無の状態ですが、フランス版250 同等管です。 外観的には、個性豊かな欧州管の内でも特にユニークな形状で、重量感の有る真空管です。
 1920年代まで主流であったトップシール(真空管の頂部から排気)とメタルベースをそのまま採用しています。 また、ニッケル製のプレートは4枚構成で、その他の電極構造もちょっと類例のないものです。 その存在自体が、不思議に思える真空管です。
   


 

Left to right F704(PHILIPS)、Two versions of P25/450(TUNGSRAM)

F704  左からF704(PHILIPS)、P25/450(TUNGSRAM) 2種です。
 F704 は、本家オランダPHILIPS社の250 同等管です。 このF704 が欧州250 同等管の中でも一番ポピュラーで、標準管的存在です。
 この時代(1920年代中頃からの約10年間)、PHILIPS社真空管のネーミングは、シンプルかつ機能的なものでした。
 AからFまでのアルファベット1字と3桁の数字で表示していました。 F704 の様な3極管の場合、最初のAからFはそれぞれフィラメント電流値で決まり、Fは1.25A以上の物に付けられています。 数字の最初の桁は、フィラメントの電圧を(F704 の様に7.5Vの場合7としています)、残り2桁がミューの大きさを表しています。
 F704 は、PHILIPS 独特のナス管形状に大型のプレート(横幅はオリジナルの250 の1.5倍程度)が納まっています。 また、プレート表面は、リブの代わりに無数の凹凸を付ける事で補強をして有ります。
 フィラメントは、他の250 同等管よりかなり細目のオキサイドコートタイプで3本吊りとなっています。 写真のF704 は、B4ベースですが、UXの物も生産されています。
 最後は、TUNGSRAM のP25/450 です。 この名称は、プレート損失25W、最大プレート電圧450V(つまり250 の規格)から付けられたものですが、実際の最大プレート電圧は、600V と言う強力版です。
 外観は、PX25系で紹介しましたP27/500 に良く似ていますが、プレートの方は、MOV 社のPX25旧型管と大きさや外観はほとんど同じ物(このタイプのP27/500 も存在します)です。 ただ、プレートの厚み(奥行き)は、PX25 の2倍近く有ります。 これは、前出のUX-250 とPP5/400 の関係と同じです。
 左側のP25/450 は、初期のタイプで、プレートの支持方法もPX25旧型管と同じです。 フィラメントは、オリジナルと同じリボン状のM字型2本吊りで、ベースもUXタイプとなっています。 上部のマイカ板による支持と相まって非常に頑丈な造りで、耐震性は完璧と言ったところです。
 右のP25/450 は、プレート支持方式を近代化(簡略化)した後期のタイプです。 それでも同時代の他のST管と比較した場合、かなり頑丈な部類に入ると思います。 各電極は、初期のタイプと同じですが、フィラメントは、PX25 などと同様の細目の4本吊りを採用しています。 また、ベースはB4タイプですが、UXも有ったと思われます。
 TUNGSRAM社は、この他 12A、71A、245などの米国同等管も当時製造していました(型番はそれぞれPX1120,PX1710,PX2450です)。 この様に同社は、3極出力管に関して実に多くの真空管を製造していました。 製造しなかった球を探した方が早いくらいで、本当にユニークな会社です。
      


 

Left to right 2A3(FIVRE)、2A3(BRIMAR)、CV851/6B4G(STC)

2A3  左から2A3(FIVRE)、2A3(BRIMAR)、CV851/6B4G(STC)です。
 左は、イタリアの真空管製造メーカー FIVRE社の2A3です。 イタリアでは、英国、ドイツ、フランス等のように有力なメーカーはあまり存在しなかったようです。 日本で知られているのはこのFIVRE社ぐらいではないでしょうか。
 イタリアでは初期の段階から業務用、民生用とも、PHILIPSグループから真空管の供給を受ける事が多かったようです。
 写真のFIVRE 2A3は、戦後の製品のようです。 プレートは、米国でも一般的なH型プレートですが、フィラメントの吊り金具は、米国で(主に量産性を考慮して)とっくに使われなくなったコイルスプリングを使用しています。 同社は、GT管でも遅くまでガラスステムを採用するなど、昔の米国管の雰囲気を留めた製品が多いのが特徴とも言えます。
 各電極などの造りは、大変しっかりしており、変な米国製の物より良いくらいです。
 次は、BRIMAR の2A3 とSTC のCV851(民生品では6B4G)です。 両者は、外観上(ベースを除き)同じように見えるはずです。 それもそのはずで、両者は同じ会社です。
 STC社は、ご存じの方も多いと思いますが、19世紀末に米国WEの英国支店のような形でスタートし、英国での電信電話などの通信業務を独占していったいわば英国WEのような会社です。 業務用真空管もWEと同じ規格で各種製造されました。 これらは、4000番シリーズ(例えば、300A,274Aは、それぞれ4300A,4274A)として有名な存在です。
 ただ、WEと異なるのは、民生用真空管も製造販売した点です(WEも初期には民生品を出していましたが)。 ただ、それらの製品にはSTC の表示は行われずサブブランドを使用していました。
 BRIMAR は、そのブランド名で1930年代中頃から戦後まで使用されたものです。 つまり軍を含む政府向け真空管には、STC またはKB/FB などの略号を付けて供給し、民生品にはBRIMAR ブランドで発売していました。
 写真で紹介しています2A3 は、民生品でしたのでBRIMAR、6B4G は、たまたま政府向け(CVナンバー)でしたので表示がSTC となっていますが、同じラインで製造されたものです。
 2A3、6B4G ともいわゆる2枚プレートのものですが、米国の製品に比べ両プレートの間隔が大変狭いのが特徴で、フィラメント吊り金具は、コイルスプリングを採用して有ります。 STC らしく大変完成度の高い真空管です。
        


 

Left to right 46(Cossor)、46(RT)、3T20(F.MAZDA)

46  46(Cossor)、46(RT)、3T20(F.MAZDA)です。
 英国のCossor社の46です。 同社は、他に210 の同等管は早くから出していましたが、どちらかと言えば米国管とは無縁のメーカーの一つと言えます。
 そのCossor が何故46(旧ナス管)を製造していたのかは、資料が乏しく今のところ不明です。 欧州管の場合、ガラス形状や各電極などに各社固有の特徴が有りますで(第二次大戦前の場合)、この46も他社からのOEM品ではなく同社製である事は確実です。
 この時代、同社の真空管には型番やフィラメントの規格を印刷したデカール(シール)が貼られていますが、どういう訳か46は、この部分が手書きになっていますので、大量に生産した物でも無いようです。
 各電極周りの構造は、フィラメント吊り金具にコイルスプリングを使用している以外、オリジナルにかなり近い物です。 ベースもやはりUYタイプです。
 次も同じく46でフランスのRT社のST管時代のものです。 次の3T20 もそうですが、なで肩のST形状はフランス管の特徴でもあります。 内部の構造は、米国のオリジナルとほぼ同じ感じです。 この球は、軍用に使用されたもので、ベースはより絶縁性に優れたセラミック製の物を採用しています。
 最後は、米国の801(VT62) の同等管で、フランスMAZDA の3T20 です。 この名前は、3は3極管、Tはトリタンフィラメント使用、20はプレート損失から付けられた同社固有の表記です。
 この球の特徴は、カーボングラファイト製のプレート(通称カーボンプレート)を採用しているところです。 米国でも戦前の一時期同様のプレートが使用されています(10系参照)が、それらと比較すると各電極の構造は、プレートの一部形状を除いて同じと言って良いほど酷似しています。
 米国は、第二次大戦(欧州戦線)参戦以前から、当時劣勢であった欧州の連合国に向け大量の軍需物資(米国製真空管も含まれます)を救援の為送っていました。 また、戦後は、それらの機器や真空管が欧州の一般市場に放出され米国規格の真空管が定着するきっかけにもなりました。 欧州各メーカーも(戦中および戦後)それらの代替え品としての需要に応えるため一部米国規格の真空管を製造したもの(ここで紹介しています46,3T20 もその例)と考えられます。
 また、これらの動きとは別に、戦後米国と欧州各国間で真空管の規格統一が双方向で図られました。 結果として、欧州管の独自性は、以後急速に失われることになりました。
  


TUBE DATA
ITEM	Vf(V)	If(A)	Va(V)	Vg(V)	Ia(mA)	Ri(ohm)	Gm(mA/V	u	Ra(ohm)	Po(W)	Pa(W)
210 USA	7.5	1.25	425	-39	18	5000	1.6	8	10200	1.6	12		
PX2100	7.5 	1.25	450 	-34	18	5000	1.65	8	10000	
PP3/425	7.5	1.25	425			2800	1.00	2.9	10500		12
A710	=210
250 USA	7.5	1.25	450	-84	55	1800	2.1	3.8	4350	4.6	25
A750	=250
UX-250	=250
E165A	=250
F704	=250
P25/450	7.5	1.25	600max	-84	55	1900	2.1	4.0	4250	4.5
3T20	=801(VT62)

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