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公開日: 2001年 6月10日

●アメリカ合衆国の死刑制度

文責:長 尾 亜 紀

 1995年4月19日午前9時02分、オクラホマシティにある連邦ビル(the Alfred P. Murrah Federal Building)が、合衆国史上最悪のテロによって爆破されました。2000年4月19日以降現在まで、この現場跡は、連邦政府が管理する国立公園(Oklahoma City National Memorial)となり、レンジャーが24時間で監視すると同時に、ボランティアで、爆破事件の被告人がどうやって爆破事件を起こしたのかという経緯、公園内にある「時の門」と椅子の由来を解説しています。

 「時の門」とは、9時01分と9時03分を記した二つの黄金の門を指します。この二つの門に挟まれた時間である9時02分に爆破が起こりました。あいだには池を設け、一面の水を貼っています(硬貨を投げ入れる人が多く、掃除・回収と見回りがタイヘンだとか)。椅子は、
で言えば、水面の南側位置する場所に設置されています。犠牲者の居た階の場所にその数だけ設置されています(このエリアは立入禁止となっており、椅子に触れることができるのは、遺族、負傷者、同僚といった関係者のみです)。たった1人の人間が現実に起こしたこのテロによって殺された犠牲者の数は、168人にものぼります。

 明日6月11日(月曜日)午前7時(現地時間)は、この連邦ビル爆破事件のマクベイ死刑囚を、インディアナ州にある刑務所にて、連邦政府が薬物注射による死刑を執行することになっています。
→参考リンク:オクラホマシティ連邦ビル爆破事件(
CNN
 
 □ 処刑前日の報道
 英語:
http://www.cnn.com/2001/LAW/06/09/mcveigh/index.html
 日本語:http://www.cnn.co.jp/2001/US/06/08/videotape.mcveigh/
 
 □ 処刑日の報道
 英語:
http://www.cnn.com/2001/LAW/06/11/mcveigh/index.html
 日本語:
http://www.cnn.co.jp/2001/US/06/11/mcveigh.execution.02/
     
http://www.cnn.co.jp/2001/US/06/11/mcveigh.execution/

 私たちは、この公園を訪れることができたと同時に、オクラホマ州重罪犯刑務所死刑監房・死刑執行室を看守長の説明とともに視察する機会に恵まれました。それにより、知ることができたアメリカの死刑制度の一端をお伝えしたいと思います。

 オクラホマ州の死刑執行率は、合衆国内で最も高いだけでなく、アムネスティ報告による中国、イランを含めた諸国のなかでも高いものだと言われています(
Tim Talley, Associated Press Wirter, Report: Oklahoma ha s highest per capital execution rate in nation, in News-Capital & Democrat, April 27,2001, p.15A)。この報道によれば、今年だけで既に10人が執行され、合衆国が死刑制度を導入したこの47年で初の女性黒人死刑囚の執行もこの中に含まれています。ワーデン看守長によれば、この5月2日には女性3名の執行も予定されているとのことです。オクラホマ州が死刑制度を復活させたのは1977年で、1990年の初執行以降、その数は40名になります。死刑につきまとうのは、証拠の見直し(証拠不十分)による無罪の可能性でしょう。実際、報道のなかでも、フロリダ州で20名、イリノイ州で13名が、死刑宣告後に無罪となったと言及されています。

 オクラホマ州の死刑執行は薬物注射で、以下のようにして行われています。

 当日夜8時40分になると、死刑執行チームが執行室に待機し、囚人に時間が知らされます。囚人は手錠なしで部屋に案内され、自ら部屋に入り、自らベッドに上ります。その後、5名の担当者(警備の管理者)が手足首をベッドに縛りつけます。この執行室の奥の部屋には、薬物注射をおこなう人が待機しています。この専門家の身分は明らかにされることはありません。

 刑務所は死刑の執行を公開する義務の下にあり、この刑務所には24名定員の立会部屋(Watch room)があります。処刑室をガラス越しに見ることのできる立会部屋の1つは、マス・コミ(TV局、ラジオ局、新聞社等)関係者が立ち会うための部屋です。彼等は執行の場に必ず立ち会うことになっており、総勢で9〜10名の枠があります。地元のマス・コミは必ずそのなかに入ることになっており、注目される事件の場合には地元以外のマス・コミはくじ引きとなっています。私たちの視察に動向した地元政党新聞の記者によると、彼自身も立ち会ったことがあり、その時にはメモ帳とペンを貸与されたと聞きました。さらに、この報道関係者の部屋を挟み死刑執行室をガラス越しに見ることのできるもう1つの部屋は、被害者の遺族などが立会うための部屋です。このほか、死刑囚自身が7名の枠内で立会人を指名することができます。また、職務として、局長、判決を下した判事、検事、郡保安官なども参加することが要求されていると聞きました(但し、判事はめったに来ないとのこと)。

 死刑執行が行われるまでは、それぞれの部屋はガラスにシャッターが下ろされています。執行直前に、この執行を無効にする権限を持つ州知事に電話がかけられた後、看守長に電話をかけ執行の指示を得て初めて、そのシャッターがあげられます。この執行の前に死刑囚は2分間、好きなことを言うことができます。看守長によれば、多くの死刑囚は、遺族への謝罪と自身の家族への言葉を残すといいます。その後、(1) 50ccの薬剤を投与して睡眠を誘い、(2) 呼吸を止めるための薬剤を投与し、(3) 内臓、心臓の活動を停止させる薬剤を投与します。身体の大きな人であっても概ね3〜6分で死に至ると聞きました。

 このような末路を免れ得ないこの刑務所の死刑囚が生活を送る、死刑囚監房にも私たちは足を運ぶことができました。死刑判決の後90日以内に執行日が設定されます。死刑囚は執行日の30日前に執行日の通知を受け取ります。この通知が届いて後、彼等は死刑囚としてのインフォームド・コンセントを受けた上で、
H-unitと呼ばれる死刑囚監房において、30日間、いままでとは異なる「特典」のある生活を送ることになります。面会時間の制限はありません。監房のなかから、通路におかれた電話を使って自由に電話をかけることができます(但し、費用は自分持ち)。監視は、コンピュータ一制御によって行われ、13人が24時間態勢で詰めています。シャワーを浴びるときも、各自の部屋のドアがコンピューターで開けられるので、シャワー室まで各自が1人で歩いて行きます。監房は石造の2人部屋です。スプリンクラーとトイレ(アルミ製)、ベッド(石造なのでクッションを上に載せる)がついています。窓がないので、一つずつ裸電球が壁についています。囚人達は、その態度によって、読書が可能となったり、TVを購入して設置することができたりします。また10畳ほどの広さの全面コンクリートかつガラス張りの運動場もあり、ここで、複数人が組になってバスケットボールなどをすることができます。

 私たちが機会を得たこのような施設見学は、死刑の是非を論ずるにあたり、事実に触れるという意味において、私自身にとっては有意義でした(この刑務所は、一般監房のみですが、法曹関係者の見学を受け入れています)。さらに、合衆国がその歴史のなかで、死刑囚に対してだけではなく、一般社会に対しても「表現の自由」を最大限尊重しようと努力する姿勢には、大いに見習うべき点があると思いました。
 


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