国立科学博物館は、国鉄の台中駅と高速道路の中港路インターチェンジの中間にあります。私が訪れたときは、台南市に住むアマチュア天文家、林啓生さんに台中市に来てもらい、彼の大学の後輩、黄千玻さんと一緒に案内していただきました。この博物館は、1988年に開設され、現在第３、４期工事が進行中で、これが完成すると展示面積が倍増します。
博物館に向かって右側に「太空劇場」（プラネタリウム）があります。このプラネタリウムの技師、邱光亮さんに会って、お話をうかがいました。直径23メートルのドームの下に階段状の座席が300あります。プロジェクターは五島光学製で、カナダのIMAXが入っています。
台湾には公共のプラネタリウムは、ここ台中と台北市天文台の「天象館」しかありませんが、台北市の方は座席が平面に配置される古いタイプのものです。大人の入場料が100新台湾ドル（約500円）でした。
プログラムは、まず初夏の星空の解説から始まります。邱さん自身が説明台に立って、北の大熊座（ター・ション・ツォー）や南の南十字座（ナン・シー・ツー・ツォー）を説明しながら、ときどき質問をして、観客全員に大声で答えてもらうような方法で行っていました。北斗七星（ペー・トウ・チー・シン）については、各星の中国古名をひしゃくの先から順々に憶えさせていました。
こういう形で伝統的な星の名称に慣れていくのは、中国人ならではの方法だと思います。星空の開設のあとは、「翔[皐羽]」（飛ぶ＝To Fly）というスミソニアン博物館製作の映画がありました。
「太空劇場」の隣にある「科学中心」（科学展示センター）の３階に、地球および天文の展示があります。「中国古代天文学展示区」もあり、大変興味深いものです。台湾には国立台湾大学をはじめとして、有名な大学は多数ありますが、天文学部というようなものはありません。わずかに中[土歴]市の中央大学に物理・天文研究所（大学院、ここの60センチ反射望遠鏡が台湾最大の望遠鏡）があるだけですから、こういった博物館での教育が大切になるのでしょう。
まず。もう一人のアマチュア天文写真家、林本初さんの家を訪ねました。こちらの林さんは日本語もうまく、「九州バンブークラフト」の社長さんです。日本の別府市に台湾のクラフト製品を輸出している事業家で、台南への連絡は彼のところのファックスを利用させていただきました。周銀王さんにもお会いしました。彼の天体写真も有名です。
次に、何耀坤先生のお宅へお邪魔して、台南市天文協会の歴史をお聞きしました。先生は長年高校で理科を教えられ、いまは退職されました。日本語が大変お上手で、ハレー･ブームの1986年に天文協会（天文同好会）を設立したそうです。
現在、台湾政府に登録されている天文教会は五つありますが、会誌を定期的に出しているのは台北市と台南市の協会だけです。
何先生が第１期、第２期の理事長を努め、現在は健興中学の林長宏先生が理事長で、蔡致誠さんが総幹事です。会誌「台南天文之友」は、会員85名に毎月配布されていて、天体写真も毎号添付されています。活動のひとつとして、日月食や惑星の観測界を一般市民に公開したり、夏休みに小中学生に天文研修会を開いたりしています。
面白いと思ったのは、呉世忠会員の指導で、プラスチック製の小望遠鏡を子供たちが各自で組み立てて、望遠鏡の原理を学んでいることでした。これは日本でもはやらせたいものです。
街中に徐明敏さんが経営する「立国書局」（立国書店）というお店があり、この奥が台南市天文協会の事務所です。書店といっても、現在は、望遠鏡・顕微鏡などの理科教材を主に売っていて、林啓生さんの天体写真集がシリーズとして売られています。この事務所は夕方は子供たちの「補習班」（塾）として使われているようですが、専用の事務所があるのはうらやましい限りです。中国大陸の北京市の天文館とも、会誌「天文愛好者」を交換しており、『月刊天文』の同好会名簿に紹介されてからは関西天文同好会とも会誌の交換が始まったそうです。
四川料理店で会食したあと、夕方からは車で台南市南部の海岸へ南十字星の観測に行きました。南十字星座は烏座の南にありますから、６月の夕方に南中し、この頃が身頃のはずでした。あいにくと毎年４月から６月まで続く台湾の梅雨の曇り空で、ケンタウルス座のα星とβ星は見えても、南中しているはずの南十字座は双眼鏡でわずかにα星とβ星が見えただけで、残念でした。
林さんはこの村に生まれ、４人兄弟の長男で、現在29才です。台南の高校で、天文同好会の16センチ反射鏡で腕をみがいたのち、台中の逢甲大学に学び、やはり天文同好会で活躍し、会長も努めました。卒業後は２年間の兵役義務につき、現在は近くの工場に勤めています。天体観測の他は、仏教関係の本を読むのが趣味だそうです。
1985年から86年にかけてのハレー彗星が、天体望遠鏡（ビクセンＲ100Ｓ）を買う契機になったとのことです。ハレー彗星の写真を撮って、台北市立天文台（台湾版「天文年鑑」を発版し、中央天文台の役割をしている）へ送ったりもしたそうです。1986年には、前述の台南市天文協会の設立に参加して、現在は観測班の班長です。協会誌「台南天文之友」も林さんが編集しています。
天体写真は、主にオートバイで３時間半から４時間（約150ｋｍ）の阿里山まで行き、そこで撮るそうです。嘉義市から玉山（旧名新高山）国立公園までの国道18号線の途中、阿里山森林遊楽区（講演）に入るゲートの手前で右に曲がり、しばらく行くと「77ｋｍ」（嘉義市からの距離）という道路標識があり、そこの右側で、台南市天文協会の会員が「仙女坪」（アンドロメダ平）と名づけたところが観測場所です。標高約2300メートルの地点で、万歳山の南麓にあたり、季節的には秋の終わりから冬の終わりにかけて、晴天が多いということです。
林さんは日本の天文雑誌だけでなく、アメリカの「スカイ・アンド・テレスコープ」誌、オーストラリアの「サザン・アストロノミー」誌にも投稿が採用されています。台湾では天文関係の雑誌がありませんので、日本の天文雑誌や上記の雑誌の他に、「アストロノミー」（アメリカ）、「アストロノミー・ナウ」（イギリス）、「ＣＣＤニュース」誌なども定期的に購読しています。
今後は天体写真を続けるだけでなく、コメット・ハンティングや超新星の捜索もしてみたいというのが、林さんの希望です。口径10センチから１８センチの屈折望遠鏡、30センチから40センチの反射望遠鏡も買いたいし、お金があれは車も買ってダイナミックに動きたいという夢も持っています。
こうして台湾の地方都市に来てみると、東南アジア諸国の中でも台湾（中華民国）が、国民の教育水準においても、経済・社会の面でも、また天文という趣味の上でも、日本にいかに近いか分かります。言葉は、何先生のような年配の方なら日本語で、林さんのような若い方なら英語（お互いに片言でも）で、いずれにせよ漢字の筆談をまじえて、天文関係の話は十分通じます。あるいは台湾の他の天文協会とも、楽しく交流を深めながら、趣味の上での国際交流を図りましょう。
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台南市天文協会の連絡先： 中華民国 台湾省台南市南門路189号 台南市天文協会 |
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I contributed an article about my trip to Taiwan, visiting the National Planetarium in Taichung City and the Astronomical Asoociation in Tainan City, in June, 1992.
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