A young girl visited the local temple to ask for the Okitsumiyako, a talisman of safe child delivery. The priest of the temple was told about this because he was out that evening, but did not know the girl in the village. In that night's dream, the Arhat Buddha (Arakan) told him that that girl was the dragon of the local valley.
The following evening, he told the young girl to come and pray there for 100 evenings.
On the 100th evening, the priest became afraid, but gave the talisman at the tip of a bamboo stick, as was told in the dream by the Arhat. The young girl immediately turned to a dragon, devoured the bamboo stick and went into the temple, heard crying "Oh, it was you who told the priest about me!"
The dragon was later found dead in trying to eat at the Arhat Buddha statue of the temple.


挿絵:打田早苗

おきつみやこ

(The Dragon's Talisman)

米沢弁で

むかしあったけど。ある夏も終わりごろ、村の寺の門を叩く娘がおったけど。

「おきつみやこ一枚さずげでもらいたいと思って来たどこだけ」

ちょうどそん時、和尚さま村さ出かけて、留守番の小僧だけだったから、ことわったど。

「ほんじゃ、明日の晩げまた来るっす」て、下駄からころして石段おりでったど。

晩げになって、和尚さま、そのこと聞いたげんど、心当たりなかったど。「こりゃ、村のもんでねえな、変だな」

その晩は、そのことが気がかりで、和尚さまは一晩うとうとしてだら、夜明け前に夢見だんだど。枕元さ、阿羅漢さま立っだど。

「和尚はここの谷さ住む竜に狙わっでるんだ。気つけねど、食れでしまうぞ」

「なじょしたらええんだべ」

和尚さま、おっかなくなっで、阿羅漢さまさたずねだど。

「そんじゃ、その竜ば百夜通わせで、それからおきつみやこをやればええ。ていうても、まだまだ怪力もってっから、やるときにゃ、三尺の青竹の先さ、おきつみやこばはさんでやればええ。油断すんなよ」て、阿羅漢さまがすっと消えで、目覚ましたど。

その晩、やっぱり娘が来たど。門開けだらええ娘立ってだど。鈴でも転がすようなきれいな声で、「おきつみやこ、おぐやい」ていうのだど。

「そいつぁ気の毒だげんど、百夜願かけた者でないど、出せねんだ」て、帰してやったど。それから毎晩、寺の石段のぼる下駄の音がして、九十九晩目になったときに、娘がいうたど。

「和尚さま、もう九十九晩通ったほでに、明日の晩はおきつみやこ書いておくやい」

「よしよし、明日の晩は書いてやる」

それから小僧に裏の太い竹を伐らせて、おきつみやこ書いて、竹の先さはさんで、門ばぴしりと閉じて、かんぬき二重にかけて、百夜にそなえだど。

「ええが、何起きても、声出すな。門、ぎちっと押さえてるんだぞ」

ふるえでる小僧ば、ごしゃぎごしゃぎ、用意し終わったころ、雨が落ちてきたど。裏山からひゅうて冷たい風吹いてきたど思ったら、娘の下駄の音がしたど。

「今日で満願、おきつみやこ、おぐやい」

「よし」とばっかり、おきつみやこつけだ青竹ば、娘の目の前につきだしたど。そいつ見た娘は、急に青い顔に変わったど思ったら、たちまち竜の姿になって、がりがりと青竹かじりはじめたもんだから、和尚は、

「小僧、小僧、裏から村の衆呼んでこい」て、いうど、竜の目めがけて、青竹をぶんなげ、ふところから数珠出して、じゃらじゃらと鳴らしたど。

「和尚、和尚、そんなごどしたて駄目だぞ」

和尚も恐っかなくなって、奥の方丈の間にかくれたど。

「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」って数珠をじゃらじゃら鳴らしてるうち、門ぶち破って、竜が入ってきたど。

和尚は、もう駄目だと思って、ふれえながら「なみあぬだぶつ」て唱えっだら、竜は方丈の間などに目もくれねで、扉ぶち破って本堂の方さ、ごろごろと入って行ったど。

百夜も願かけに通ったもんだから、さすがの竜も、力が弱くなったんだべ、吐く息がとぎれとぎれだったど。ほんでも和尚は腰抜けて、立てなぐなって、方丈の間でふるえて、気絶してしまったんだけど。

しばらくしたら、本堂の方がら、

「おまえだな、おらが竜だていうこと、和尚さ教えたのは...」て言う声ど、がりがりて何かを囓る音がしていだけあ、しばらくして音がぱったり聞こえなくなったんだど。

「和尚さま、和尚さま、どごさござった。ありゃりゃ、この様子じゃ、和尚さま、竜から食わっだがもしんねぇ」

小僧からの知らせで、村の衆が鎌や鍬もって来てけだ声でようやく気ついて、みなで本堂さ行ってみだら、竜が阿羅漢さまのあごに噛みついたまんましんでいだんだけど。

とーびんと。

共通語で

むかし、ある夏も終わりの頃、村の寺の門を叩く娘がいました。

「おきつみやこを1枚いただきたいと思ってきました」

その時は和尚さんは村に出かけており、留守番の小僧だけだったので,断ってしまいました。

「それでは、明日の晩また来ます」と、下駄の音をカラコロいわせて石段をおりていきました。

夕方戻った和尚さんは、話を聞いても心当たりがありません。

「これは村のものではないな。変だな」

その晩は、そのことが気がかりでうとうと眠れずにいると、夜明け前に和尚さんは夢を見ました。枕元に阿羅漢が立ち、

「和尚はこの谷に住む竜に狙われておる。気をつけないと食べられてしまうぞ」

「どうしたらいいでしょうか」

和尚さんは怖くなって、阿羅漢にたずねました。

「それでは、竜を100晩通わせてからおきつみやこをやるように。とはいうものの、まだまだ怪力をもっているだろうから、やるときには3尺の青竹の先におきつみやこを挟んでやればよい。油断をしないように」といって、すうっと姿を消してしまいました。

さて、その晩、娘が来ました。門を開けてみるときれいな娘が立っていて、鈴をころがすようなきれいな声で、「おきつみやこをください」といいます。

「気の毒だが、百夜願を掛けたものにしかやれない」といって、娘を帰しました。それから、毎晩寺の石段を登る下駄の音がして、九十九番目の夜が来ました。娘は、

「和尚さん、もう九十九晩通ったので、明日の晩はおきつみやこを書いてくださいね」

「よしよし。明日の晩はかいてやる」

それから、小僧に裏の太い竹を伐らせて、おきつみやこを書き、竹の先にそれを挟んで、門をぴったり閉じてかんぬきを二重にかけ、百夜にそなえました。

「いいか、何が起きても声をだすんじゃない。門をきっちり押さえつけておくんだぞ」

ふるえている小僧をしかりながら用意をし終えた頃、雨が落ちてきました。裏山からひゅうっと冷たい風が吹いてきたと思うと、娘の下駄の音がしました。

「今日で満願。おきつみやこをください」

「よし」とばかりに、おきつみやこを挟んだ青竹を娘の前に突き出しました。それをみた娘は急に青い顔になり、たちまち竜の姿に変わってしまいました。がりがりと音をたてて青竹を囓り始めたので、和尚は、

「小僧、小僧、裏から村の衆をよんでこい」といって、竜の目をめがけて青竹を投げつけ、ふところから数珠をだしてじゃらじゃらとならしました。

「和尚、和尚、そんなことをしても駄目だ」

和尚も怖くなり、奥にある方丈の間に隠れました。

「なみあむだぶつ、なみあむだぶつ」と数珠をじゃらじゃら鳴らしているうちに、門を突き破って竜が入ってきます。

和尚はもう駄目だを思い、ふるえながら、「なみあむだぶつ」と唱えると、竜は方丈の間などには目もくれず、扉を突き破って本堂の方へごろごろと入っていきました。

百夜も願掛けに通ったので、さすがの竜も力が弱まったようで、吐く息がとぎれとぎれでした。それでも和尚は腰が抜けてしまい、立てなくなって、方丈の間でふるえていましたが、とうとう気絶してしまいました。

しばらくしたら、本堂の方から、「おまえだな、俺が竜だと和尚に教えたのは...」という声と、がりがりと何かを囓る音がしていたのですが、しばらくして音がぱったりと聞こえなくなってしまいました。

「和尚さま、和尚さま、どこにおられますか。ありゃりゃ、この様子では和尚さまも竜に食べられてしまったかもしれない」

小僧の知らせで村の衆が鎌や鍬をもってかけつけてきた音で、和尚さんはようやく気がつきました。みんなで本堂にいってみると、竜が阿羅漢のあごに噛みついたまま死んでいました。

おしまい。

解説:語りべの心

おきつみやこというのは、お血脈のことであり、安産の護符でもあったらしく、身ごもった竜が護符をもらいに来た話である。
知識の乏しかった時代の出産は大変だったから、「子産しは女の大役」とか、「子を生むには棺に片足入れてやるもの」などと言ったそうである。竜もまた安産をねがって寺にやってきたが、神仏によってはばまれた話は、裏返しすれば神仏によって子供が授かるということでもあったと見られる。
こんな話を聞くことで、目に見える世界だけでなく、神仏のおられる世界や妖怪が住む世界、それは「心の中にある世界」でもあろうが、いわゆる異界の存在に子供たちも目を開いていくのだろう。

出典

この民話は「山形新聞」1996年7月14日日曜版に「ふるさと民話紀行、置賜地方15」(採話・解説: 武田正、挿絵: 打田早苗)として載ったものです。採話・解説者、挿絵画家、新聞発行社からこのインターネット・ホームページへの転載許可をもらっています。

RETURN TO YONEZAWA HOME PAGE | 米沢ホームページへ戻る


Please send any comments on this home page to marikoshindo@msn.com

This page is written in HTML 3.2. Created: Aug. 6, 1996. Last updated: Nov. 7, 1996