The story of "The Fan That Makes the Noses High" (Hanataka Ogi) tells about a man who wished to eat and live without doing any worthy things, was given a fan from the local god that makes the people's noses high or low, married a girl of a wealthy family because of that power of the fan, but was punished by the god of lightning.


挿絵: 打田早苗

鼻高扇

(はなたかおうぎ)

米沢弁で

むかしあったけど。あるどさ、稼ぎもしねで、うまいもん食わせてけるどこないべかという男、いだったど。

ほんで、山の神どさ行って、「どうかただ居て、うまいもの食ってられっどこ、教えておぐやい」て、一生けんめいおがんだんだど。したば、

「んだか、んだか。ほんじゃらば、この扇やんべ。鼻高くなれ、ポンポン、て仰ぐど、鼻高くなんべし。鼻低くなれ、ポンポン、て仰ぐど、低くなる」ていう扇もらったんだど。

さあ、さっそくあっちさ行っては、通りがかる人の鼻高くして、その次にゃ、「鼻低くする医者だ」て、ふれて歩いて、たんともうけたんだど。

村の祭りの日だど。向こうからきれいなお姫さま、ござったもんだから、

「鼻高くなれ、ポンポン」て仰いだから、たまらね。お姫さまの鼻、こんがえ高くなったんだど。

そのお姫さま、庄屋さまの娘だったがら、庄屋さまでは大さわぎになって、あっちの医者、こっちの医者呼んだげんど、いっこうに治らね。そこさ、

「鼻低くする医者、鼻低くする医者」て、ふれてきた医者いるもんで、庄屋さまはすぐに呼んで、

「娘の鼻低くしてくれだら、何でも欲しいもの、さし上げっから、治しておくやい」てだど。

男は奥の部屋、人払いして、お姫さまの前で、「鼻低くなれ、ポンポン」て仰いだら、たちまち、元の鼻にもどったんだけど。

庄屋さまの喜んだごど、たいへんなご馳走であったど。

「ところで、娘の鼻、元のとおりにしてくれだがら、何でも欲しいもの行っておぐやい。お金なら、蔵一つでも二つでも...」

したら男は、

「んだら、金などいらねがら、こっちのお姫さま欲しい」

てだど。ほして庄屋さまの娘のむこどのに納まってしまったんだどはぁ。それがらというもの、左うちわで暮らして、何不足ないまい日送っていだんだど。

ある夏の暑い日、縁がわに横になって、うとうとしながら、「この鼻伸ばしたら、いったい、どこまで伸びるもんだか...」なて考えながら、扇で涼しい風送っているうちに、眠りこけてしまったんだけど。したら、自分の鼻伸びるも、伸びるも、どんどん伸びて、空の雲つき破って伸びで行って、雷さまの家の囲炉裏つき破ったんだど。

「あららら、父ちゃん、灰の中から、こげなもの出てきたぜ」

「きのこが。変てこなきのこだげんど、うまそうだ」

雷さまの父ちゃん、しげしげ見てたげんど、うまそうなきのこなもんで、串焼きにでもしたらと思って、火箸でジュぐってさしたから、たまらね。

男は目さまして、びっくらこいだど。

「低くなれ、ポンポン。低くなれ、早く低くなれ、ポンポンポン」て、あわでで扇を仰いだど。したら、火箸ひっかがってるもんで、男の体の方が、ずんずん空さ浮き上がってしまうんだど。

「ありゃりゃ、村があんげぇに小っちゃぐなってしまた」ているうちに、雷さまの家では、子どもらが、そのきのこ見てで、

「何だか変だぜ、父ちゃん。このきのこ、ピクピク動くようだぜ」ていうもんで、父ちゃんも、気味悪れぐなったど。

「こりゃ、食んねきのこだ。毒きのこだかもしんねぇ」て、火箸ば、ぐいっと引っこ抜いたから、たまらね。あの高い空から、男は落ちてきて、村の東の方さある大きな沼さ落ちて、ぺしゃんこになって、体がばらばらになってしまったんだど。

いつのころからのことだか。その沼さいっぱい鮒っこが住むようになったんだげんど、それていうのは、その男の体が粉々になって沼さ落ちて、鮒っこになったいう話なそうだ。

んだがら、ただ居てうまいもの食だいなて気おこすもんでないど。

と〜びんと。

共通語で

むかし、むかし。あるところに、稼ぎもしないで、うまいものを食わせてくれるところがないかなと考えている男がいました。

そこで、山の神さまのところへ行って、「どうか何もしないで、おいしい物を食べていられる場所を教えて下さい」と、一生懸命お願いしました。そしたら、

「そうか、そうか。それならば、この扇をやる。「鼻高くなれ、ポンポン」といって仰げば高くなる。「鼻低くなれ、ポンポン」といって仰げば低くなる」という扇をもらったのです。

さあ、さっそくあちこちに出かけては、通りがかる人の鼻を高くして、その次には、「鼻を低くする医者だ」と、ふれ歩いて、大儲けしました。

村祭りの日でした。向こうからきれいなお姫さまが歩いてきます。

「鼻高くなれ、ポンポン」と仰いだから、たまりません。お姫さまの鼻はとても高くなってしまいました。

そのお姫さまは、庄屋の娘でしたから、庄屋では大騒ぎをして、あっちの医者、こっちの医者を呼んでみたのですが、いっこうに治る気配がありません。そこに、

「鼻低くする医者、鼻低くする医者」と、ふれこんできた者がいるので、庄屋さんはすぐに呼び入れて、

「娘の鼻を低くしてくれたら、何でも欲しい物をさしあげますから、ぜひ、治して下さい」といいました。

男は奥の部屋に入り、人払いをして、お姫さまの前で、「鼻低くなれ、ポンポン」といって仰ぐと、たちまちのうちに元の鼻に戻ったのです。

庄屋さんは大喜びで、たいへんなご馳走でもてなしました。

「ところで、娘の鼻を元どうりにしていただいたので、何でも欲しい物をいって下さい。お金なら蔵1つでも二つでも...」

そこで男は、

「それなら、お金などいりません。こちらのお姫さまを下さい」といいました。そして、庄屋の娘の婿殿に納まってしまいました。それからというもの、左うちわで暮らし、何不自由のない毎日を送っていました。

ある夏の暑い日、縁がわに横になって、うとうとしながら、「この鼻を伸ばしたら、いったい、どこまで伸びるんだろうか...」などと考えながら、扇で涼しい風を送っているうちに、眠り込んでしまいました。すると、自分の鼻が伸びる、伸びる、どんどん伸びて、空の雲を突き破って伸びていき、雷さまの家の囲炉裏を突き破ってしまいました。

「あらら、お父さん、灰の中から、こんなものが出てきたよ」

「きのこかな。変なきのこだけど、うまそうだ」

雷のお父さんは、しげしげと見ていましたが、おいしそうなきのこなので、串焼きにでもしようと思い、火箸でぐさっとさしたから、たまりません。

男は、びっくりして、目を覚ましました。

「低くなれ、ポンポン。低くなれ、早く低くなれ、ポンポンポン」とあわてて扇を仰ぎました。すると、火箸が引っかかっているので、男の体の方,ずんずんと空に浮き上がってしまいました。

「ありゃりゃ、村があんなに小さくなってしまった」といっているうちに、雷の家では、子供たちが、そのきのこを見ていて、

「何だか変だよ、お父さん。このきのこ、ぴくぴく動くみたいだ」というものだから、お父さんも、気味悪くなってしまいました。

「これは、食べられないきのこだ。毒きのこかもしれない」と、火箸を、ぐっと引っこ抜いたから、たまりません。あの高い空から、男は落ちてきて、村の東方にある大きな沼に落ちて、ぺしゃんこになり、体がばらばらになってしまいました。

いつの頃からだったでしょう。その沼にはたくさんの鮒がすみつくようになりました。というのも、あの男の体が粉々になって沼に落ちてきて、それが鮒になったという話のようです。

だから、ただ何もしないでおいしい物を食べたいなんていう気持ちは起こしてはいけないのです。

終り。

解説: 語りべの心

人間だれでも、働きもしないでうまいものを食いたいという気持ちを、どこかにもっている。それはいけないことだなどとお説教しても、誰も聞くものではない。
笑いに包んだ「食っちゃ寝」の話は、聞き手も笑いながら、「そんな馬鹿なことは、あるもんでない」と思いながらも、自分の部屋にもどって、ひょいと思い出して、自分の気持ちの中に入り込んでいる横着に気づいて、どきりとすることがある。置賜の名語り手であった海老名ちやうさんの柔らかい語り口での「鼻高扇」は、温かい中に毅然とした人生観が込められていた語りであった。

出典

この民話は「山形新聞」1996年8月4日日曜版に「ふるさと民話紀行、置賜地方18」(採話・解説: 武田正、挿絵: 打田早苗)として載ったものです。採話・解説者、挿絵画家、新聞発行社からこのインターネット・ホームページへの転載許可をもらっています。


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